2011年2月 Diary
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13.7% Diary
基本まったり更新です。
2月28日(月)
text+1,5000hit+1,log+4
textとフリリク企画にSSひとつずつ追加&携帯版拍手にログ4つ格納。
textはリアルの友人に捧げた『psychedelic dreams -01』です。『psychedelic dreams -02』の元ネタの話になります。
フリリクは匿名様リクエストの「津軽静雄×サイケ臨也で初めて出会った日の話」で、どうしても設定が思い浮かばず、これも『psychedelic dreams -02』と同じ設定を使わせてもらいました。ぐだぐだな上に短いです。ごめんなさい。





ついに明日は3月ですね!あっという間に春が来てしまいそうでちょっともう少し余裕がほしい今日この頃です。


以下、拍手お返事です。お心当たりのある方は反転でどうぞ。
>27日 あー、ケモノの王様〜の方
最後までお付き合い下さりありがとうございました!自分の好きなように書いた話なので途中からちょっとアレかなーとか思っていたのですが、面白かったと言って頂けて嬉しいです。シズちゃんの格好良いところをお見せできなかったのが心残りなので、番外編で何かやりたいなと画策しております。まだちょこちょこと書いていくつもりですのでお付き合い頂けましたら嬉しいです。では、コメントありがとうございました!しっぽ最高!(笑)

>27日 おおかみさんの話〜の方
拍手&コメントありがとうございました。良かったですか!相変わらず趣味全開の話なので、そう言って頂けて嬉しいです。おおかみさんの忍耐力はかなり高いのですが、1話目の時点ですでに限界間近っぽいです(笑)早く(いろんな意味で)限界になれ〜と念じながらのんびり進めていくつもりですので、またお時間のある時にでも覗いてみてやって下さい。ありがとうございました!

拍手だけの方もありがとうございました!





◆邂逅 2
※けもみみパラレル。



繰り出された拳は止まることなく、臨也の頬をかする。
それに一瞬きょとんとして。

「…ああ、そういうことか」

そう呟いて、臨也は納得したというように頷いた。
神経を刺激する奇妙な感覚の正体。それが天敵に出会ったが故の警鐘だったのだと分かってすっきりする。
自分の能力が効かない、この世でおそらく唯一の存在。
いつ、何故生まれるのかも分からない己の天敵。金龍の支配能力を完全に殺せる謎に満ちたイキモノ。知識としては知っていたが、本当にいるとは思っていなかった。それが正直な感想だった。
「…しかし、これは参ったな」
逃げるにせよ、もう少し距離をとらねば危険だと判断し舌打ちする。
目の前の狼族は正しく臨也の天敵だ。弁を弄しても止まらないだろうし、能力は効かない。しかもあり得ない怪力とくれば勝てる気はしなかった。

「ねぇシズちゃん!」
「その名前で呼ぶんじゃねぇえええ!」
「ははっ…これは話し合いは出来そうにないなぁ」

ゆらゆらと尻尾を動かしながら、臨也はこの場から脱出する機会を窺う。
だが、隙なく構えるその一方で、思考を巡らせるのも止めはしない。まさか、一目惚れした相手が狼で、しかもある意味運命の相手とは。と、そう考えて、ふと思いもよらなかった事実に作為的なものを感じて、臨也は眉を寄せた。

『金龍の天敵――龍喰らいは、世界に望まれて生まれ出でる。』

生まれつき、物心ついた瞬間から知っているその言葉を思い起こして、まさかねと思いつつも何処か納得していた。
ただ、それはまるで、いつだって自分の思い通りにならないことなどなかった世界が初めて見せた抵抗のように思えて。
臨也はふっと表情を緩めて、荒い息を吐きながら自分を睨み据える静雄を見る。
もしそうであるならば、まだ自分は完全に期待を捨てなくてもいいのかもしれない。
そう考えて、まだまだこの世界も捨てたものじゃないのかもね、と呟いて。
黒猫の姿をしたケモノは天敵である男の姿を熱を持った眼差しで見詰めて、それはそれは愉しそうに口元を歪めた。


※この時点ではシズ←イザ(無意識ではたぶんシズ⇔イザ)。


2月26日(土)
text+1
textにひとつ追加。
年の差シズイザでシリーズものの1話目になります。バレンタインSSと同設定。1話完結でぽつぽつとやっていこうと思っています。





本日は帰ってくるのが遅かったのでこれからお片づけです。一日が30時間あればいいのに!





◆邂逅 1
※けもみみパラレル。



一目見た瞬間に、たぶん臨也は恋に落ちていた。
それまで一目惚れなど馬鹿馬鹿しいと笑っていただけに、とても衝撃的だった。
大嫌いなはずの狼族。だが、酷く惹かれて、臨也はその姿を無意識に目で追っていた。
それが、最初。





「ッ!」

顔の横を過ぎ去った拳。
猫族の反射神経でそれを避けた臨也は、ひゅうと口笛を吹く。
成程、聞いていた通りだ。

「ははっ、すごいなぁ」

くつりと笑って、迫る第二撃を受け流す。
大振りで洗練されているとは到底言えない動きだが、破壊力は空気を通して十分伝わってきた。
狼にあるまじき力…いや、それどころか熊族――グリズリーでもここまでの膂力は持ち得ないだろう。
目の前の狼族の力をそう分析して、臨也は低く笑う。

「…でも、何かな?変な感じだ」

ちりちりと神経を這うような奇妙な感覚。それに首を傾げながら攻撃を避けて跳躍する。
目の前で怒りを露わにする狼族は臨也が一目ぼれした相手だった。
――平和島静雄。変わり者の友人の小学校時代の友人だという男。
怒らせるようなことをしたつもりはないがどうやら嫌われたらしい。
そう判断し、容赦なく繰り出される攻撃に溜息をついて、臨也は仕方ないかと首を振った。
臨也は嫌われるのには慣れていたし、別にこの狼族と親しくしようなどとは欠片も思っていない。
惚れた相手であろうがなんだろうが、臨也は自分の力を正しく理解していたから多少の例外はあれど誰かの側に居ようなどとは思っていなかった。

「う、わっ」

ギリギリを掠めた物体に頬を引き攣らせる。投げられたのはゴールポストだ。
つくづくあり得ない。
そう思いながら、臨也は冷静に回りに他の誰もいないことを確かめる。
薄情な友人はさっさと避難したらしい。他はだいぶ遠く離れた。
臨也の持つ唯一の特殊能力の有効範囲は特にないが、見られた場合の処理が面倒なのでできれば目撃者はいないのが望ましいのだ。
息を小さく、だが深く吸い込む。
そうして、

「止まれ」

吐き出した言葉は、静雄の行動の全てを抑え込むはずだったのだ。


※1話で終わらなかったので続きます。


2月24日(木)
text+1
textにひとつ追加。
『嘘つきの恋』27話目です。





DVD13巻見ました〜。視聴中シズちゃんとイザイザで脳内埋め尽くされてました。やっぱり好きだなぁ。デュラアニもこれで終わりかと思うと寂しいですね〜。…二期やらないかな。





◆ケモノの王様 38



数日前のことを思い出して、くすりと笑って。
臨也は二人分のマグカップを持ってキッチンを出た。
そのままリビングのソファで寛ぐ静雄のほうへ向かい、カップを手渡して隣に座る。

「ありがとよ」
「どういたしまして」

そんな会話を交わして、ゆっくりとコーヒーを飲む。
すでに夕食も済ませもうじき静雄は帰らなければいけない時間だったが、何となく二人とも名残惜しかった。

「ねぇシズちゃん」
「ん?」
「……やっぱ何でもない」

泊まって欲しいと口にしようかどうしようか迷って。
臨也は結局言わずに首を振る。

「あ、そうだ。今度シズちゃんちに挨拶に行かないと」
「ん?ああ。まぁ、そのうちな」
「すぐじゃなくていいの?」
「焦ることねぇだろ」

家族に反対される心配のない静雄は、まあそのうちでいいだろとそう考える。
それより今は、臨也と一緒にいる時間を大切にしたかった。
触れて、抱き締めて、甘やかして。
そうされるのが大好きな黒猫を構ってやるのが、静雄にとっては一番大事なことなのだ。

「…やっぱ、今日泊まってく」
「…いいの?」
「あー…連絡すりゃ大丈夫だろ」

ここは臨也のマンションだが着替えは常備されている。泊まるのには何の問題もない。
「制服、あったっけ?」
「この前置いてったやつは?」
「あ、あったかも。たしかクリーニングしてあるよ」
「なら決まりだ」

そう言って、静雄は臨也がコーヒーを飲み終わったのを確認しカップを取り上げた。
そして、それをテーブルの上においてから、手を伸ばして臨也を抱き寄せる。
応えるように、臨也も手を差し出せば。
ひょいと向かい合わせになるように膝の上に乗せられた。

「シズちゃん、俺明日体育あるんだけど」
「痕はつけないようにする」
「…手加減もして欲しいんだけど」

尻尾の付け根から先へ向けて静雄の大きな手が撫でていく。
その感触にぞくりとしながら、臨也は仕方ないなと溜息混じりに呟いた。

「シズちゃん、約束だからね。ずっと一緒にいてね」
「おー、手前が嫌だって言っても離さねぇから覚悟しとけ」

抱き締める腕の温かさ。
それを感じながら、臨也は大好きと小さく囁いて。
それに答えるように落とされる口付けに、幸せそうに口元を綻ばせた。


※あんまり設定部分を掘り下げて書かなくてもいいんじゃね?と思ったのでここまで。まだ書きたい小ネタもあるのでぽつぽつと書いていければいいなと思います。さて次は何書くかなー。


2月23日(水)
サイト移転,裏庭+1
サイトの移転を完了。
移転に伴い裏庭でのSS展示も開始しました。裏庭は隠しとなっておりますが、それほど難しい場所ではないと思います。
なお、全体として後味の良くない作品が展示されることになると思いますので、読まれる方は先に注意書きをよくお読み下さい。





サイトの移転、無事に終わりました〜。あとは検索サイトさまの登録を変更すればとりあえず終了です。これからものんびりマイペースにシズちゃんと臨也を愛でていきたいと思いますので、よろしければお付き合いくださいませ。





※本日は小ネタ連載はお休みです。


2月22日(火)
text+1
textにひとつ追加。
18日更新分の続き(8年後)になります。





24日に予定していたサイト移転ですが、明日23日に変更になりました。当分はリンクを残しておくつもりですので、お時間のある時にでもリンクの張り替え等をして頂けましたら嬉しいです。
それはそうと、ぼちぼち新しいメモ連載のネタを考え中なのですがいまいちいいネタが思い浮かばないのが現状です…。募集するかとも考えたのですが、必ず書けるとお約束できないのに募集するのもどうかなーと思うので。う〜ん…でも一応聞くだけ聞いてみるというのはありなんだろうか…。悩むー。





◆ケモノの王様 37



――数日前。

臨也は夜中にかかってきた電話に不機嫌に応対していた。
電話の主は、言うまでもなく九十九屋真一だ。

「それで、結局何の用だ?」
あれこれ話すが本題になかなか入らない相手に焦れて問う。
『はは、機嫌が悪いな』
「お前のせいだろ」
『…平和島静雄に龍について話した』
「知ってる」
『…臨也』
「何?」

声の調子を落として、九十九屋が臨也の名を呼ぶ。
こういう時、彼は本気だ。それが分かっているため、臨也も表情を引き締めた。

『俺の見た未来では金色を持った龍が生まれる可能性はない。つまり、その力を持った人間はお前を最後に生まれる可能性は薄いわけだ』
「何が言いたい」
『誰にも気付かれるな。龍族はその力を欲しがっている。元々その力で頂点に立った連中だからな…ないと不安なんだろうさ』
「…分かってる」
『まあ、お前については実はあまり心配してない。平和島静雄がいる限り、お前がどうこうなることはないだろうし』
「………」
『でも十分気をつけろ』
「…うん」

ありとあらゆる獣の頂点に立つ、龍という種族の特異性。その龍の王が持つという支配の力。それを有することの意味を十分理解している臨也は珍しく素直に頷く。
そのめったにない素直さを気味が悪いなと笑って、九十九屋はそろそろ電話を切ると告げた。

「九十九屋」
『何だ?』
「……心配してくれて、ありがと」

気恥ずかしいのを堪えてそう言ったというのに、電話越しの相手は沈黙したままだ。
臨也はしばらく反応を待つが、あまりのリアクションのなさに苛立ってついぱしぱしと尻尾で床を叩いてしまう。
そんな臨也の行動を見透かすかのようにあれほど反応のなかった相手がくくっと喉を振るわせる。

『じゃあな、ケモノの王』
携帯越しの笑いを帯びた声に。
臨也は不愉快そうに顔を歪めて、言い返した。

「…俺はもう二度と会いたくないね」
『それは残念だ』

クスクス笑いを残してぷつりと切れた通話。
ついつい手にした携帯を睨みつけて、臨也は唸るような声で言う。

「くそっ、次会ったら覚えてろ」

次があることが前提の言葉を口にしてから、いややっぱり会いたくないとふるふる首を振って。
臨也はふうと息を吐き出して、ようやく九十九屋の件にカタがついたと安堵するのだった。









しばらく手の中で携帯を転がしながらぼんやりと思索に耽って。
ふふ、と臨也は楽しげに笑った。
それは、あの九十九屋にも分からないことがあるということが、純粋に面白かったからだ。

「残念。ハズレだ」
ぽつりと、すでに繋がっていない携帯に向かって言う。
九十九屋は臨也…金龍の支配の力を持つものが龍族の長であり獣の頂点である『ケモノの王』なのだと認識している。古い文献にも歴史書にもそう記されているのだから、それは仕方のないことではあったのだが。
だが、臨也の意見は違う。おそらく、歴代のこの力を持った金龍もそうだっただろう。

――本当の王様はシズちゃんなのにねぇ。

臨也は『ケモノ』だ。歴史書が示すところの、世界の敵。その力をふるい今ある世界を壊すケモノ。
そんなふうに言われるほどの、自然現象すら支配する臨也の力に対抗できるのは静雄だけだ。
いつの時代にもケモノが生まれれば必ず生まれる対の存在。
時代によってはケモノの敵であったり味方であったり、時に伴侶であったりする人間。
臨也はそれを本能で知っていたし、たぶん静雄も無意識に感じていたはずだった。

「…別に、だからシズちゃんが好きなわけじゃないけど」

ケモノと対の存在は引かれ合うが、それが必ずしも好意的なものであるとは限らないことは先代、先々代の金龍が証明している。殺し合いに発展したというのだから、そう昔の自分たちと違いはなかったのかもしれないが。と考えて、臨也はいや違うなと思い直した。
考えてみれば、気持ちは隠していたが臨也は最初から平和島静雄に好意を持っていた。最初から静雄が力の効かない相手だと確信していたわけでもなかったし、つまり、これはたまたま惚れた相手が対の存在だったというだけなのだ。
うん、と一人頷いて。
臨也は満足げに笑う。

この世で唯一、金龍の支配の効かない天敵。
ケモノの力を抑え、ただの人間に変えてしまえるただ一人のケモノの王様。
そして、臨也にとっては何よりも愛しい、たった一人。
それが、平和島静雄だ。

「これは俺だけの秘密だ」

クスクス笑って、臨也はゆらりと尻尾を揺らして窓越しの月を見上げる。
静雄にだって教えてやらない。静雄の秘密は、ただ一人、最後のケモノとしてこの胸の内に秘めたままでいると臨也は決めていた。
求愛されたあの日から、いつだって臨也にとって一番大事なのは静雄だ。だから、誰であろうと静雄の真実には触れさせてなどやらない。

――何しろシズちゃんは俺だけの王様だからね。

他の誰かが静雄に興味を持って手を出してくるなど、許せるはずもない。心の狭さは静雄以上だと彼はちゃんと自覚していた。
とりあえず臨也と静雄の関係をある程度把握できている唯一の人間が手を出さないと誓ったのだから、これでしばらくは安心である。
だから、ひとまずの平穏を得たと考えて。
愛する者が対である幸せに、猫族の姿をしたケモノはそれはそれは満足げに笑って、彼の姿を脳裏に思い描いてくるると喉を鳴らすのだった。


※元のオリジナル話の設定を詰め込むとこんな感じになるという…本編に混ぜ込むはずがミスったせいで説明不足すぎ!


2月20日(日)
text+1
textにひとつ追加。
『嘘つきの恋』26話目です。うっかり配分を間違えたせいで今月中に終わらないです。すみません…。





地味に別ジャンルの原稿をしつつ地味にストック数を増やそうと努力中です。一日一本が目標なのですが昨日はうっかりオリジナルの方に意識が行ってました。ファンタジー系も好きなのですがさすがにこれはシズイザには使えないなーとか思ってみたり。あ、サイト移転後も普通に今まで通り更新しますのでご安心下さい〜。今回はジャンル変更とかじゃなくサーバーの移転だけになります。さくらさんのサーバーをお借りしたので、この機会にさすがに自重してたエログロ絵チャのSS(一応グロはなしのもの)も隠し部屋に掲載していこうかと思ってます。傾向は…otherのところに置いてあるモブイザみたいな感じの救済なしSSとか調教とかが中心ですので人を選びますけどねー…。とりあえず今月末の絵チャ開催時には絶対9巻ネタが来ると確信しています。お手柔らかに!(私信)





◆ケモノの王様 36



ゆっくりと歩を進めながら、静雄は隣の臨也の横顔をちらりと眺めた。
黒い艶やかな髪と短いが柔らかな毛に覆われた猫の耳。切れ長の目。おそらく色素が薄いことから来るのだろう赤味を帯びた瞳。白い肌。きれいに整った秀麗な顔。細身だが無駄のない筋肉のついた体。触り心地がいい真っ直ぐに長い黒い尻尾。
それらを順に目で辿って、改めて見た目はいいんだよなぁと嘆息する。
さらに、決してよろしいとは言えない性格も、そこが味だろうと言う物好きがいるのだ。心配のネタは尽きそうにない。

「なぁ臨也」
「んー?何?」
「今日、手前の家に寄っていいか?」
「おや、俺は当然寄るものだと思っていたんだけどね?」

くすりと笑われて何となくムッとして、静雄はそうかよと答えて顔を前に向けた。
そんな態度を、やっぱりシズちゃんは可愛いなぁなんて思われているとは思ってもいない。

「帝人くんに訊かれて思ってたんだけど、やっぱり俺シズちゃんのことすっごく好きだなぁ」
「………そうかよ」
「何でこんなに好きなんだろうってくらい好きだ。声も顔も性格も。嫉妬深いところも全部好き」
「…嫉妬深くて悪かったな」
「ははは、怒んないでよ。そういうところも好きだって言ってるのに」

どうやら臨也の従兄弟への嫉妬は完全に見透かされているらしい。
元より隠す気はないが何となく気恥ずかしいような気がして、ばさりと不機嫌に尻尾を振ってみせた静雄に。
臨也はにやにや笑って、楽しげに言葉を紡いだ。

「俺にはシズちゃんだけだって言ってるのにそれでも嫉妬するとか、ホントシズちゃんは可愛い」
「…うるせぇよ。手前が誰彼構わず愛想振りまくのが悪い」
「えー?俺別に愛想振りまいたりしてないし」

ことりと首を傾げて見せて、まるで分かっていない風を装う確信犯。
本当は自分がどう見られているか全部理解しているくせに、わざととしか思えない態度を続けるのは。

「やっぱり手前は性悪だ」
「あはは、そんなのもうとっくに分かってることでしょ?」

嫉妬してもらいたいんだよ俺は、と自ら種明かしする黒猫に、今すぐこの場で口付けたい衝動に駆られて。
静雄はここは街中だ!冷静になれ!と自分に言い聞かせて何とか堪える。
それに、残念と呟いて、臨也は先程までより早足で歩き出した。

「早くうちに行こ?」

その言葉と表情がまるで早くキスして欲しいと言っているように思えて、無意識にごくりと喉を鳴らしてしまった静雄に。 臨也は、目を細めて悪戯に成功した子供のような顔を浮かべてみせ、もう一度「早く」とねだるような声で誘うのだった。


※けもみみ臨也さんは無自覚ではなく確信犯です。


2月18日(金)
text+1
textにひとつ追加。
来神時代の話。今回は一応前編となってしますが、話そのものは1話で完結しています。





トップページにサイト移転の告知をしました〜。一応もう新サイトも稼動しているのですが、まだ移してないものも多いので新アドレスはファイルのアップが終わってから改めて…。





◆ケモノの王様 35



しばし考えて。
臨也はうーんと唸って、首を振った。

「難しいなぁ…」
「?」
「決定的な理由はないんだよ。強いて言うなら、シズちゃんがシズちゃんだから、というのが妥当なところかな」

そう言われて、はあと微妙な返事を返すしかない帝人に臨也は笑う。
理由は分かる。優しくて自分を甘やかすのがうまいこと。この世界でたぶん唯一自分の力が効かない人間であること。他にも些細なものを含めればきりがない。
だが、臨也にとってそれはどれも決定的なものではないのだ。

「俺は平和島静雄が好きだ。そして、そこに理由を求めたことはないんだよ」
「…好きという事実だけでいいってことですか」
「そうだよ。それで十分だ」

うんと頷いて。
臨也は目を細めて、空を見上げる。
なんとなくその視線を追った帝人の耳に、呟くような声が聞こえた。

「もし運命というものがあるとして、それが俺とシズちゃんを出会わせたって言うのなら。俺は世界に感謝してやってもいい」

耳を疑う科白に、でも帝人は何も言わずに臨也を見る。
神を信じない彼がそういうのだ。何かそう口にするだけの理由があるのだろうと考える。
「おい帝人!お前こっちだろ!」
後ろから正臣に言われて、いつの間にか別れ道まで来たことに気付いて。
帝人は時間切れですね、と笑った。
聞きたかった答えを結局得られなかった彼に、臨也は口の端を吊り上げて言う。

「質問はもういいのかい?」
「今回は諦めますよ。またそのうち訊くかもしれませんけど」
「そう?じゃ、またね」
「はい、また明日」

手を振って、追いついた静雄と肩を並べて歩き出した臨也のその後姿をしばらく眺めてから。
帝人は、何だか惚気を聞いただけだったかも、と小さく呟いた。


※区切りの関係で後日談1個目がまだ終わりません…。


2月16日(水)
text+1
textにひとつ追加。
『嘘つきの恋』25話目になります。





いったい何度9巻読み返したら気がすむんだというくらい読んでます。我ながら気持ち悪いです。保存用にもう一冊買うくらいには縒れってきてますよ…。
…水面下で移転の準備中です。以前から考えてはいたのですがなかなか踏ん切りがつかず…。まあ今のサイトをそのまま移すだけなのでとくに何をするわけじゃないです。近々移転する予定なのでその前に改めて告知したいと思います。


以下、拍手お返事です。お心当たりのある方は反転でどうぞ。
15日 バレンタイン話〜の方
バレンタインSS読んで頂きありがとうございます!楽しんで頂けたようで良かったです。続編については、続編というかシリーズものでしばらくやってみようかなと考えて現在3本ほど書いております。他のSSと同じようにのんびり更新していくつもりですので、よろしければお付き合い下さいませ。拍手&コメントありがとうございました!

返信不要の方も拍手だけの方もありがとうございました!





◆ケモノの王様 34



「じゃあ九十九屋さんは帰っちゃったんですか?」
「うん。あっちでまだやりたいことがあるとかでさ。ま、俺としてはその方が平和でいいけどね」

学校からの帰り道。
まだ警戒気味な正臣を後方に、並んで歩く臨也と帝人は顔を見合わせて苦笑する。

「まあ、良くも悪くも影響力の大きい人ですからね」
「そうなんだよ。しかもまだ諦める気ないんだよ?あり得なくない?」
「…それは、ノーコメントで」

そんな会話をしながら歩いていく臨也たちの背中を睨むように見つめて、静雄はふうと息を吐き出して。
隣の正臣に話しかけた。

「あいつらって、ただの従兄弟なんだよな?」
「…そうですよ。でも境遇が似てるせいで、仲はいいみたいですけど」
「ふうん」

狼の尻尾が不機嫌に揺れるのを横目で見て、正臣は少しだけ歩みを遅くする。
八つ当たりをするような人間でないと分かっているが、つい、というやつだ。

「………」
「………」

沈黙が落ちる後方二名とは対照的に、前方の二人はのんびりと会話を続けていた。
九十九屋のことから段々と雑談に移っていく中で、ふと思い出したかのように帝人が問いかける。

「ところで、何で静雄さんなんですか?」
「おや、ずいぶん今更な質問だね」
「気にはなっていたんですが、訊く機会がなかっただけです」
「ふぅん。そうだね…」

帝人の問いを頭の中で反芻して。
ゆらゆらと尻尾を揺らして臨也は考え始めた。


※後日談1個目に入りました。どこまで掘り下げるか今考え中です。


2月14日(月)
企画+2
企画にふたつ追加。
バレンタインSSで、今回は同居パラレル設定と年の差シズイザ(静雄24歳×臨也14歳)になります。相変わらず微妙な出来です…。





午前中休みだと調子に乗ってこんな時間(午前2:00)に更新。さすがにそろそろ寝ます。





注意!『ケモノの王様 33』を読まれる前にお読み下さい。
前々回の構成ミスがかなり響いて話の一部変更を迫られる事態になったため、前回分を差し替えしました。『ケモノの王様 33』を読まれる方は改めて32からお読み下さい。本当に申し訳ございません。(元の32は…そのうちなんとかしたいと思います。)


◆ケモノの王様 33



そっと愛しい黒猫の髪を撫でて、静雄は口を開く。

「本当にいいんだな?」
「俺はシズちゃんがいいんだよ。だから、誰が反対しても押し切る」
「分かった」

頷いて、一旦言葉を切って。
独特な色の瞳を見ながら顔を近づけて耳を軽く齧ってから。改めて言う。

「臨也、俺からももう一度言う。結婚してくれ」
「よろこんで」

シズちゃん大好き!と抱きつく臨也を抱き締め返して、静雄も嬉しさで頬を緩める。
そして、その暖かな体温を感じながら、別に大丈夫だと思うんだよな、と改めて思った。

臨也の力は、金色の龍の中でも一時代に一人にしか現れない力だと九十九屋は言った。
予知能力を持つ九十九屋と九十九屋の父親はこの先200年の間に金色が生まれることはないと予知していた。だから決して現れないはずの力だった。
だが、その力は予想もしないものに宿って生まれた。龍の血を引く黒猫。龍でもなく金色でもない子供に宿っていたのだ。
九十九屋の父親以外誰もそのことに気付かぬまま、臨也は育ったという。だが無自覚に発揮される力はすべて臨也に都合が良いように世界を回す。
臨也の性格を考えれば、すごく幼い頃は別としても、すべてが思い通りになってしまう世界など望んでいなかったことは想像に容易い。彼は自分の予想を超えることをしでかしたり思惑を外れることも含めて人間を愛しているのだから。
だからこそ、臨也はそれに気付いてからは完全に自分と他人の間に線を引いた。力を意識的にしか使えないように自分に暗示までかけて、それでも臨也は一人でいることを選んだ。その理由は。

「よく聞け馬鹿猫」
「ちょっと待ってよ。馬鹿って何さ馬鹿って」
「うるせぇいいから聞け」
「……」
「俺は手前の言うことなんざ聞いてやらねぇ」
「何?いきなり関白宣言?」
「違うっつーの。でも、代わりに一人にもしねぇからよ」
それで我慢しとけ。
そう告げると、臨也はぱたりと尻尾を床に落とした。
きょとんと見上げる顔が、次第に困ったような、喜ぶような、複雑な表情へと代わっていく。

「…ばっかじゃないの」

そう言って俯く顔はたぶん真っ赤だ。
寂しがりのくせに相手の行動が自分が望んだからではと考えて信用できなくて、一人を選ぶようなそんな馬鹿猫を抱き締め直して、静雄はやっぱねぇなと笑う。
九十九屋とその父親の見たという最悪の『可能性の未来』。それをこの猫族が起こすことはない。

――させねぇよ。

万に一つ、そんな未来が現実になりそうになったら、さっさと掻っ攫って、どこか誰もいないところで二人で隠遁生活でも送ってやる。そう考えて、静雄はそれも悪くないと一人満足げに頷いた。

「シズちゃん?」
「ん、何でもねぇよ」

黙ってしまった静雄に不思議そうな顔をする臨也。
その髪に指を滑らせながら柔らかい唇を食んで。
臨也に対しては真実最強であるらしい狼族はパタパタと尻尾を振った。

「機嫌いいねぇ」
「そりゃ、手前からプロポーズされるとは思ってなかったからな」
「………」

にやりと笑って言ってやれば渋い顔。静雄は笑いを消さぬまま伏せられた猫耳を弄ろうと手を伸ばして。
その時、ふと、思い出した。

「あ、婚約指輪」

弟の助言は的確だ。卒業と同時に結婚するにしても、まだほぼあと一年ある。自分のものだという分かりやすい目印は必要だ。
さすが幽だ。と弟を脳内で褒め称えた静雄は、とりあえずバイトをせねばと考える。

まさか、臨也に自分を構う時間が減るという可愛いようなそうでもないような理由でそれを妨害されて、最終的に一ヵ月後、自分の手で作った歪なリングを贈ることになるとは、まだ静雄には知りようもないことであった。


※本編的にはここで終わりです。あとはおまけ的な後日談とか。…しかしうっかりミスの余波でタイトルの由来が後日談に持ち越しとか…ホントどうなの自分。


2月12日(土)
text+1
textにひとつ追加。
シズイザで特に何ということのない話。





ごめんもうホント9巻色々すごすぎですね。とりあえず新←臨だと認識しつつ、しばらく9巻妄想だけで生きてけそうな萌えを貰いました。ごちそうさまです。でもってもう一回読んできます。(まだ読むのかよ?)





◆ケモノの王様 32



翌日。



「シズちゃん、どうしたのさ?」
後ろ抱きに臨也を抱えたままの静雄に、臨也は困惑した表情で振り返る。
その薄い猫耳に唇を落として、静雄は小さく何でもないと頭を振った。

――折原臨也は、いずれ―――。

あの後、昨日の夜。
静雄は九十九屋と会った。
そして、どこかで予想していた事実を突きつけられた。
それが、どうしても頭から離れなかった。
龍族という種が持つ特殊な事情は知っていた。だが、どこかで軽く見ていたのだ。龍も所詮は自分たちと同じ人間だと。
その前提を覆しかねない真実。それが、どうしようもなく、

「重いな」

呟きは無意識で。だが、至近距離の臨也にそれが拾えないはずもなく。
「何が?」
と問われて返答に困る。
どう言えばいいのか。そもそも、それでも自分は臨也を手放す気などないのだと、どうすればきちんと伝えられるのか。
自身の口がうまくないと自覚している静雄は眉を寄せて考えた。

「シズちゃん」
「…おう」
「あの後さ…俺の家から帰った後。君、九十九屋に会ったんだろ?」
「……気付いてたのか」
「そりゃあ、ね」

苦笑して、臨也はくるりと向きを変えて、体勢を向かい合うものへと変える。

「聞いたんだろ?俺のあの力がどういうものか」
「…ああ」
「怖い?」
「んなわけねぇだろ。手前は手前だし、それに、俺の気持ちは変わってねぇ」
「うん」

静雄の言葉に嬉しそうに頬を緩めて笑って。
臨也は静雄の名前を呼んだ。

「シズちゃん…静雄」
「……」
「うわ、顔真っ赤。可愛いなぁシズちゃん」
「うるせ」

顔を逸らして拗ねた声を出す静雄に、臨也は今度は声を出してひとしきり笑った。
それから、

「シズちゃん、卒業したら俺と結婚してよ」

言葉とともにカプリと一回耳を噛まれる。
かつて静雄にされたプロポーズ。
それを今度は自分からした臨也に、静雄は何度か目を瞬かせて、それからそれでは足りないとばかりに自分の頬を引っ張ってみる。
そして、ようやく納得したのか臨也に視線を合わせて、破顔した。


※修正版。


2月10日(木)
text+1
textにひとつ追加。
『嘘つきの恋』24話目になります。
九十九臨も好きですが書くには力量不足だと自覚しています。





発売日当日に9巻GETという奇跡!(←北海道は発売日から入荷まで通常3日ほどかかります。)ちょ、臨也さん!と叫びつつ読了。もいっかい読んできます。





◆ケモノの王様 31



「ああもう!とにかく次シズちゃんに手を出したら許さないからね!…シズちゃん、行こ」

笑う九十九屋に怒鳴って、それからきゅっと静雄の手を握って、臨也がそう言う。

「…おう」
「何?」
「ああ、いや…別に何でもねぇよ」

薄い猫耳に指先で触れると嫌そうな顔。
それを見ながら、静雄は息を吐き出した。
九十九屋が敵であるという認識を改める気はないが、聞いておきたいことがいくつかあった。
だが、臨也の機嫌の悪さを考えると今それを言い出すのは躊躇われる。
仕方ないか、と諦めて。

「行くか」
「うん」

こくりと頷いて早くとばかりに手を引く臨也について静雄も歩き出そうとして――後ろから声がかけられた。

「おいおい、折原。俺はこのままか?」

九十九屋の言葉にそういや命令の解除をしてなかったか、と思った静雄だったが、臨也はちっと舌打ちする。
どうやらわざとそのままにしていこうとしていたらしい。

「少しそのまま反省してたらいいんじゃないの」
「指一本動かせないまま放置はさすがに困る」
「勝手に困れ」

尻尾の毛を軽く逆立てて唸る臨也。
それに溜息をついて、静雄はしょうがないなと首を振った。

「臨也、解除してやれ」
「えー…だってこいつが悪いのに」
「さすがにこんなところに置いたままってわけにはいかねぇだろうが。またわざわざ解除しに来る気か手前は」
「ああそれもそうか」

なるほどと納得して、ふっと小さく深く呼吸してから、
「じゃあシズちゃんに免じて特別に解除してあげるよ」
と、臨也は九十九屋に向かって言う。
それを聞き終わったと同時、『動くな』という命令が無効になったことを確かめるように、九十九屋が手を何度か握る動作をした。

「ホントは今日一日そのままにしてやるつもりだったんだから、シズちゃんに感謝しなよ」

あくまで真顔でそう言う臨也に、九十九屋はくっと笑って静雄を見た。

「ははっ、助かったよ」
「…手前のためじゃねぇよ」

むっすりとした顔で応じる静雄は、じゃあなと言ってさっさと臨也を連れて背を向ける。
臨也が九十九屋に会うのが気に入らないのだと、そう思う気持ちを見透かされているようで不愉快だった。
そんな静雄の頭の中に、直接声が響く。

(今日の夜、9時に学校の前に来い。色々話しておきたいことがある。ああ、安心しろ。もう臨也を連れて行く気はないさ…今のところは、だが)

念話が出来るらしい男の“声”に。
静雄はちらりと後ろを振り返って、小さく臨也に気付かれないように頷いた。
それは、臨也についてよく知っているらしい男から聞きたいことも、聞いておくべきこともあったからだった。


※まだラストまでもう少しあります。


2月8日(火)
text+1
textにひとつ追加。
R-18監禁?話です。実はエロは書くのも読むのも甘いのより鬼畜とか陵辱とかのが好きだったりします。でも最後はハッピーエンドの方がいいんですよね。なんて我侭!





のろのろとバレンタインSSを考え中。目下最大の悩みはえろを入れるか否かなんですよね。いっそR-18部分だけリンクで別ページにするとか…?今までイベント系はえろやってないのであえてやらないという選択肢もあり。ホント悩みどころです。


以下、拍手お返事です。お心当たりのある方は反転でどうぞ。
8日 ケモノがクライマックス〜の方
はい、ケモノもようやく終わりそうです〜。話数自体はそれほど多くないのに休みを挟んだので何だか長かった気がします。まだ後日談的な話も残っていますのでもう少しお付き合い頂けますと嬉しいです。ええと…ごめんなさい…。隠しページそのものはこのサイトにもありますが、使っていないのでリンクを切っていました。今はまだ何もないので探す意味がないです…すみません!設定の方はたぶん『猛獣』の設定のように少し分かり難い場所にリンクを貼る形になると思います。紛らわしい書き方をしてしまったようですみませんでした…。コメントありがとうございました!

返信不要の方も拍手だけの方もありがとうございました!





◆ケモノの王様 30



折原臨也は、銀龍と黒猫の間に生まれた子供だった。
もとより確率的には猫が生まれる可能性の方が遥かに高いため、両親は臨也が猫族であろうとも気にしたりしなかったし、とても可愛がってくれていたと思う。
だが、そんな両親にも、後から生まれた妹たちにも、臨也は自分の秘密を教えたりはしなかった。

『そうか、君がその世で最後の黄金竜なんだな』

そう言い当てたのはただ一人。今は亡き九十九屋の父親――金色を持って生まれた最後の龍族だった。
外見は猫族の臨也がたったひとつだけ持って生まれた力。それを見抜いた彼は、幼い臨也にとって唯一心を許せる相手だった。



「お前ら、帰っていいよ。で、もう二度と九十九屋真一の命令に従わないこと。あと、俺と俺の力については誰にも話さないこと。いいね?」
臨也が発する言葉に、男たちはこくこくと頷く。
だが別に意思確認をする必要はないのだ。一度した命令は潜在意識の奥深くに刷り込まれて、決して逆らうことなど出来ないのだから。
支配――それが、臨也が唯一持っている龍の力。
生物も無生物も問わず己の望むままに従えてしまえる、金色を宿す龍だけが持つはずの力だった。

「…おいおい、あいつらは俺の子飼いだったんだけどな?」
「知らない。シズちゃんに手を出したんだし、むしろこれくらいで済んで良かったと思うべきだね」

操られるようにふらふらと行ってしまう男たちを見送って。
九十九屋は溜息をついた。
やれやれ、と思う。九十九屋は、ある意味最強の力を持ちながら、それを使うことを望まない臨也をずっと歯がゆく思っていた。その力さえ使えば、本家だろうが何だろうが、臨也に思い通りに出来ないことなど何もないというのに、と。
だが、無自覚に口にするだけで人の意思を変えてしまえる黒猫は、ただ沈黙を保ち、普通のどこにでもいる猫のふりをし続けた。相手の本心すら変えてしまえる彼は、“誰も信じない”“誰も好きにならない”と頑なに心を閉ざし続けていた。

「…なるほど、な」

平和島静雄はそんな臨也が見つけた、この世でたったひとり自分に従わない人間なのだ。
しかも独占欲が強くて誰を敵に回すことも構わない、規格外の力を持った人間。なるほど。この存在が傍らにあれば、九十九屋とその父親が見た未来はおそらく現実になる。――もうひとつの未来は、回避されるだろう。

「何?まだ何かする気なら、お前でも許さないよ?」
警戒する黒猫。それを抱き締めて、きつく九十九屋を睨む狼に苦笑が漏れる。
もとより九十九屋は静雄を試そうとしたのだ。
龍を敵にしてでも臨也と一緒に居る気はあるのか。どの程度の力と覚悟を持つのか。

――及第点だ。まだまだ甘いけどな。

予想より早く臨也が戻って来てしまったのが誤算だが、まあ己の力を嫌っていた臨也が静雄の為ならば迷わず実行に移せると分かったのは収穫だろう。
そう考えて、溜息を一つ。

「折原」
「何?」
「結婚式には呼べよ」

唯一自由になる表情筋を駆使してにっこり笑って言ってやれば。
僅かな間を空けて、臨也の尻尾が一気にぼふんと膨らむ。

「誰が呼ぶか!!」

顔を真っ赤にして叫ぶ黒猫に声を上げて笑って。
九十九屋は晴れ晴れした気分で目を細めた。


※結局からかわれ通しな臨也さんでした。


2月7日(月)
text+1
『嘘つきの恋』23話目になります。
ちょっと一部見直しをかけてますが今月中には無事に完結まで持っていけそうです。





じわじわ迫る発売日にそわそわし通しです。早く来い。
9巻が待ち遠しくて色々手につかない状態ですが、のんびり次の長編…ではなくシリーズもの?に着手してます。まさかの年上攻めなシズイザです。おかしいな、年下攻めのが好きなんだけど…?シズちゃん23歳、臨也14歳というちょっと待てよ中学生かよ…な設定。シズちゃんそれ下手すると犯罪だから!とツッコミつつ、わりと健全なお付き合いでほのぼのな話になる予定です。





◆ケモノの王様 29



空気すら凍らせるような声。
絶対的なそれが、空間を支配していた。

「全員動くな」

ゆらりと黒い尻尾を揺らめかせて、一瞬でこの場の支配者になった猫族が命令を下す。
「な、んで…」
拳銃の引き金にかけた指を動かすことが出来ず、男が顔を蒼白にして呻いた。
他の者にしても同様だ。自分の意思に従わなくなった体に、ただ困惑し、その原因だろう猫族に恐怖する。
そんな存在など完全に無視して、猫族――臨也はゆっくりとした歩みで静雄に近づいてきた。
「シズちゃん大丈夫?」
「…ああ、大丈夫だけどな」

真正面に立つ黒猫に溜息をついて。
静雄はその頬に手を伸ばし――。

抓った。

「いっ、痛いよシズちゃん!何するの!?」
当たり前だ。十分手加減しているとはいえ、痛いように抓ったのだ。
酷いよ助けに来たのに!と喚く臨也に静雄は眉を吊り上げて文句を言う。

「手前何危ないことに首突っ込んでんだ。何かあってからじゃ遅ぇんだぞ」
「危なくないもん!危なかったのはシズちゃんの方じゃないか!」
「煩ぇ黙れ。俺が言ってるのは、こんなのとつるんで危ないことしてんじゃねぇってことなんだよ」

こんなの、と行儀悪く指を差された九十九屋は苦笑した。
その指につられて視線をそちらにやった臨也は、酷く不機嫌な顔をする。

「九十九屋、俺はシズちゃんに手を出すなって言ったよね」
「ああ。だから、俺は直接は手を出していないぞ?」
「屁理屈捏ねるな。間接的にだって手を出すべきじゃないだろ」
「それはそう言わなかったお前の落ち度だな」
「………」

からかうような声で言われて、臨也はむうと唸って黙る。
確かに、落ち度だ。その点は子飼いの連中を使う可能性を考えなかった自分が悪い。

「…しかし、本当にお前の力が効かないんだな」
「そうだよ。だからシズちゃんは俺の天敵だったんだ」

静雄が抓っていた頬を開放したのをいいことに、ぎゅうっと静雄に抱きついて。
臨也は満足げに目を細めて、笑う。

「九十九屋。俺を止められるのは、たぶんこの世でシズちゃんだけだ」
だからお前の出る幕じゃないよ。
そう言って、静雄の胸に懐く猫族の姿をしたイキモノ。
それの背に腕を回して抱き締めて。
静雄は次の言葉を待った。
そうして続けられる言葉は、静雄の望んだ通りのもの。

「俺には、シズちゃんだけなんだよ」

耳ざわりのよい声が紡ぐ告白を聞きながら、静雄もまた、満足げに笑って見せた。


※次でようやくけもみみ臨也さんのネタ明かし。これが終わったらキャラ設定も(隠しで)公開します。


2月5日(土)
text+1
デリック→臨也(?)な話。臨也さんは情報屋さんではありません。





泊まってるホテル、有線LANが使えるので更新です。最近は全室完備なところも多くなって便利ですよね〜。





◆ケモノの王様 28



静雄は強い。
龍族を間近で見て育った臨也が言うのだ。それは間違いない。
だから、たかだか20人程度が相手であれば、その大半が大型肉食獣系であろうとも負けるはずもなかった。
耳を伏せ、威嚇の唸り声を上げる静雄に、すでに半数以上やられた男たちはじりじりと包囲しつつもうかつに手が出せない状態で。
しかし、半ば戦意を喪失しつつも、それでも背後の龍族の視線に逃げ出すこともかなわない。
逃げられないのなら諦めて戦うしかない。そんな雰囲気を漂わせている彼らに、静雄は溜息をつく。

「…もう止めろ。こんな連中けしかけたところで俺の気は変わらねぇぞ」

そう九十九屋に向かって言うが、九十九屋はわずかに目を眇めただけで何も言わない。

「おい、聞いてやがんのか手前!」

叫ぶが、これも無視。
携帯を弄る九十九屋の姿に、静雄はざわりと尻尾の毛を逆立てた。
絶対殴る、と決めて。まずは周りの邪魔な連中を蹴散らそうと考えた、その時。

「!…まだいんのかよ」

背後からする複数の足音。どうやら男たちか、あるいは九十九屋が援軍を呼んだらしいと察して、くそ、と舌打ちする。
包囲網が厚みを増した。もとより逃走する気はないが、逃走しないからこそ厄介だと思う。
無意味なことを続けさせる龍族を睨んでから。
静雄はとにかくまずは当初の予定通りこの連中を蹴散らしてしまおうと決めた。
包囲網を崩して、高みの見物を決め込んでいる相手を殴って、それから――。

「臨也は渡さねぇ。あいつの本家だろうがなんだろうが、ぜんぶ敵に回したって構わねぇんだよ俺は。臨也の野郎が本家と全面戦争するってんならそうするし、ここから逃げるってんなら逃げるだけだ。龍なんざ怖くもなんともねぇ。俺が怖いのは、臨也と離されることだけだ」

この後どうすべきかを考えて、誰にともなく呟いたその声は、九十九屋の耳にも届いたのだろう。
携帯の画面から顔を上げた九十九屋は、探るような目で静雄を見てきた。
元々敵は九十九屋一人と認識していた静雄は、その反応につい意識をそちらにやってしまう。
時間にしてほんの一瞬。実に一秒にも満たない時間だった。

「くそ、化け物がッ」

そんな叫びと共に。
静雄の意識が逸れたことに気付いた男の一人が、懐から抜き出したのは拳銃で。
叫びにそちらを見た時には、既に遅かった。
「死ね!」
さすがに銃はヤバイ。そう思うが、どうすることも出来ず。
拳銃の引き金が今まさに引かれようとした、その時。


「――止めろ」


深い怒りを帯びた、ぞっとするような声が、その場を支配した。


※ようやくタイトルと話を結び付けられる部分(の前)まで到達。あと少しだ、頑張れ自分。


2月3日(木)
clap+5
拍手を変更。
今回はすべて連作で5本です。not『猛獣』設定で幼馴染な来神シズ→イザパラレル。長編でやるには設定がいつものお決まりパターン過ぎたので拍手に流用になりました。完結してます。
過去のものはlogに格納しました。





ようやく拍手を更新。でも全部連作だから実質1本です…。気が向いたら短編書いて交換したい。
明日から2泊3日で東京行きなのでたぶん5日の更新はお休みです。よろしくお願いします。





◆ケモノの王様 27



臨也から、龍については聞いていた。
高い魔力と多くの異能。プライドが高く、力に驕った一族。
唯一の救いはその繁殖力の低さだけ。同種同士ではほとんど子供が生まれず、他種と交われば生まれるのはほぼ他種。
臨也は、そんな種族と猫族の間に生まれた。
龍の特徴を持たずとも半分は龍。龍の血を持つ限り、臨也は龍の柵から逃れることはかなわない。

「…だからって、臨也を好きにさせる気はねぇ」
あいつは俺のだ、と静雄は唸る。
「龍だろうが何だろうが臨也を連れてくってんなら、全部ぶっ潰すだけだ」

自分を睨んだままそう言う静雄に、九十九屋はくつりと笑った。

「ぶっ潰す?…無理だろうな。お前は龍の異能の特殊性をまるで知らない。暴力だけで勝てるほど龍族は甘くないぞ?」
「んなの、やってみなきゃ分かんねぇだろうが…」
「分かっているさ。いくら強いとはいえ、お前じゃ俺にだって勝てない」
「………」

九十九屋の言葉に、静雄は奥歯を噛み締める。
静雄は臨也から龍という種については教えられていた。だが、龍族が持つ異能がどのようなもので、静雄がそれに対抗できるのかまでは聞いていなかった。
だから、九十九屋が使う異能の種類が分からない以上、現段階で静雄には打つ手がない。

「狼族は種としてはそれなりに強いかもしれないが、それじゃ本家の連中は納得しない。やつらは臨也と龍族との婚姻を諦めたりはしないだろう」
だから、と九十九屋は言う。

「臨也のことは諦めてもらえないか?」

出来るかよ。そう、静雄は頭の中で答える。
出来るわけがない。あれほどに強く惹かれる存在を静雄は知らない。あの存在が唯一だと、狼の本能がそう訴えるのだ。

「冗談じゃねぇ。あいつは俺のだって言ってんだろうが」
「…聞き入れる気はないんだな?」
「当たり前だ。手前らがそういうとこかなり適当なことは知ってるけどな、俺たち狼族は、一度決めた相手を早々変えたりしねぇんだよ」
「なるほどな」

静雄が真剣なのは十分に伝わったのだろう。
九十九屋は、なら仕方ないと溜息をつく。

「力ずくで諦めてもらうことにしようか」

その声に答えるように複数の人間の気配が近づいて来て。
静雄は、結局そうなるのかよと思いながら、九十九屋をきつく睨み付けた。


※最初に考えたラストの頭部分にようやく入りました。やっとここまで来た!


2月1日(火)
text+1
textにひとつ追加。
『嘘つきの恋』22話になります。
あと1月分のメモ連載も格納済みです。





1日から余力がないとはどういうことだ、と思いつつお出かけの準備中です。飛行機乗りたくないー。





※今日は小ネタ連載はお休みです。