スキンシップがすこしはげしいです
※パラレル、幼馴染。事後だけどそういう描写はなし。








朝日が顔を出してから数時間。日がだいぶ高くなった頃。
のそのそとベッドから這い出した臨也は、痛む腰に盛大に顔を顰めた。
足を下ろし、自分の身体を確かめて軽くため息をつく。

「もう少し加減を覚えて欲しいんだけどねぇ」

小言を聞かせたい相手はここにはいない。
おそらく今頃は池袋で取り立ての仕事に精を出しているのだろう。
とりあえずいつまでものんびりしていられるほど暇なわけではないので、臨也は名残惜しいがベッドから降りることにした。
つきりと散々弄られ擦られた箇所が痛むが、切れている様子ではなかったので無視する。
適当に引き剥がしたシーツを身体に巻きつけて、シャワーを浴びるためにそろりと歩き出した。
一歩足を踏み出す度に走る鈍い痛みに、臨也はうんざりとした表情で眉を寄せた。
痛みの大本は下半身だったが、それ以外にも噛まれたり強く握られて痣になった場所が複数あり、それぞれが鈍痛で訴えかけてくる。
バスルームへの道のりが思った以上に長く感じるのもいつものことで、その度に幼馴染であり恋人である男を呪ってやりたくなるのもいつものことだった。

「ホント、もう少し加減を覚えさせないと俺その内死ぬかも」

さすがにヤり殺されるのは嫌だなぁなどとのんきな感想を口にしながら、臨也はのろのろと廊下を進む。
こういう時は無駄に広いマンションにしたのは失敗だったかと思わないでもないが、臨也の仕事の都合上、部屋は分けないというわけにいかなかったので仕方なかったのだ。
とりあえず痛む身体を引きずってバスルームを目指すしかない。

「ッ…マジ痛い…くそっ、シズちゃんめ、覚えてろよ」

つい悪態が口をついて出る。
もちろん、臨也とて静雄とのセックスが嫌いなわけではない。
ただ、互いの体力差だけは如何ともし難いものがあった。
身体の頑強さとイコールであるかのように、静雄は疲れにくい。
並よりは体力があると自負している臨也でも彼の相手を一晩するのは辛く、途中からは意識を失っては引き戻されるという状況を繰り返す羽目になる。
極限まで奪われた体力は回復に数日を要することもあり、臨也は頻繁に行為に及ぶことは避けるようにしていた。
もっとも、それと仕事が相次いで重なって暫く相手をしなかったことが、昨日の静雄の暴挙とでも呼ぶべき行動に繋がったのだが。
つらつらと昨日の敗因を考えながら歩いていく。
と、自然疎かになった手からシーツの一部が下がり、足に絡まった。
あっと思った時にはもう遅く。
臨也はシーツを踏み付け大きくバランスを崩した。
「うわっ!?」
いつもとは比べようもなく鈍くなった身体が言うことを聞くはずもない。
衝撃を覚悟して臨也は目をきつく閉じ、頭を庇う。

「臨也ッ」

叫び声。次いで、身体が何かに抱き止められた。
硬い腕だ。良く知ったその感触に、臨也は目を開ける。
「シズ、ちゃん?」
自分を床との衝突から救った腕の主の名を呼んでみる。
半ば放心したまま、何でいるの、と小さな声で呟いた。
「…昨日、無理させたからな。気になって早めに上がらせてもらった」
「そっか」
納得した臨也が何か言う前に、
「シャワー浴びるんだろ」
静雄はそう言って臨也を抱き上げバスルームへ連れて行く。

「一人で入れるか?」
「シーツは新しいの敷いておくぞ」
「傷の手当してやる」

忙しなく動き回り世話を焼く静雄に、臨也は少し鬱陶しそうなポーズをとるが内心は喜んでいたわけで。
結局、つい先程までの呪いにすら似た怒りは霧散してしまっていた。

―シズちゃんはもう少し加減を覚えるべきだと思うけど。でもまあ今日のところはお説教はなしにしてあげよう。


甲斐甲斐しい静雄に気を良くした臨也は、そうやって甘やかし続けているからこそ、いつまで経っても静雄の過剰で過激なスキンシップが直らないのだとは全然思い至らないのであった。












※学習しない愚か者のはなし。


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