きちんとききかんりをしましょう
※パラレル、幼馴染。





side:S



沈黙が支配する部屋の中で、その重苦しい空気に静雄は小さく息を吐いた。
むっつりと黙り込んだ幼馴染は、静雄の前に座りただ黙々と指を消毒し包帯を巻いている。
傷は決して深くない。だが、すぐに治りそうなほど浅くもなかった。
痛いほどの沈黙に耐えかねて静雄が口を開こうとしたと同時、

「…俺、アレには触るなって言ってたよね」

ぽつりと臨也が言った。
臨也の言うアレとは、彼の所持品である小さなナイフのことだ。
掌に収まるほど小さいが恐ろしく切れ味のいいそれは、部屋の片隅にケースに収められて滅多に出されることはない。
どこで手に入れたのかしらないが、それが普通の品でないことだけは同居を決めた際に静雄にも説明されていた。
可能な限りできればケースにも触れるな。そう言われていたそれを落としてしまった静雄は、転がり出たナイフをしまおうと何気なく拾って指を切ったのだ。
刃に触れたのは一瞬だったが、黒い刀身は遠慮なくすっぱりと静雄の指を切り裂いた。

「アレはね、預かった俺が言うのもなんだけどかなりヤバイ品なんだ。事務所に置いて物取りにあったら危険だからこっちに持ってきてたけど…」

どうにかしないとね、と呟いた臨也はてきぱきと散らかした救急箱の中身を片付けて立ち上がる。
ついでのようにひょいと持ち上げられる黒いナイフはすんなり臨也の手に収まった。

「そいつは手前しか持てないってのか」
「今はね」

黙り込んだ静雄を臨也は不思議そうに見やったが、何も言うことなく救急箱とナイフを元の位置に戻す。
なんとなく気に入らない。静雄はそう思うが、具体的になにが気に入らないのかは分からず黙るしかなかった。

「もう触っちゃダメだからね」
「…わかった」
「絶対だよ」
「分かったって言ってる」

不機嫌そうに返す静雄に臨也は困ったように笑って、彼の前に膝を着く。
視線を合わせれば、あからさまに機嫌を損ねた顔と対面して、臨也としてはもう苦笑するしかない。

「シズちゃん、俺がアレに触って欲しくないのは俺の唯一の特別をアレが傷つけられるって知ってるからだよ?アレはシズちゃんを傷つけることができるから、だから触るなって言ってたんだけど、そこのトコ分かってないでしょ?」
「………」
「アレは俺の特別じゃないんだから、そんな顔しないでよ」
そう言って笑う臨也になんだか酷く気恥ずかしくなって、静雄は抱き締めることで顔を見られないようにすることにした。












※特別は自分だけがいい静雄さん。
話が裏設定に飛び火しすぎたので強制終了しbパートとして収納。


[title:リライト]