いがいときずつきやすいいきものです
※パラレル、幼馴染。原作時間軸ぶっちぎりで捏造。





side:I



自分のしてしまったことに傷ついた瞳が、臨也を呆然と見つめていた。
骨折、打撲、裂傷。今の臨也の状態は傍から見れば相当酷い有様だったろう。
だが、それよりも臨也は自身にその傷を負わせた少年の方が心配だった。
傷つき揺れる瞳は臨也を映したまま、酷い怯えの色を見せていた。自分の暴力が臨也を傷つけてしまったことに、心の底から絶望していた。
それを見て取って、臨也はそうかと呟いた。

その日、臨也は悟った。
今のままでは、いつか彼のそばにいられなくなると。
彼、平和島静雄が、傷つけることを恐れるあまりいつか自分のそばからいなくなってしまうと。
そんなことを許せるわけがなかった。
臨也はすでに心に決めていた…否、悟っていたといってもいい。
臨也にとって静雄は唯一無二の存在である、と。
だから、臨也は決めた。
己の知る内で一番強い存在から力に対抗する術と逃れる術を学び、同時に情報を集め有利に事を進める技術を、人の心を観察理解し望むように誘導する方法を求めた。
たった一人認めた唯一との約束を果たすためだけに。
当時彼らは8歳。7年に渡る長い別離が待っていた。









「ッ!!」
臨也は声にならない悲鳴を上げて飛び起きた。
まだ暗い室内を見渡してから、急いで己の隣の気配を探る。
そして、そこに眠る静雄の姿を確認して、臨也はようやくほっと息を吐き出した。

「…我ながら情けないよねぇ」

静雄を起こさないように小さく呟く。
幼い頃、何度も何度も繰り返し見ていた夢に未だに翻弄され怯える自分がいっそ滑稽で臨也は自嘲する。

「シズちゃん、俺を置いていかないでよ」

泣きそうだと思い、急いで目を閉じた。
その暗闇に浮かぶのは自分の元から去る静雄の後姿で。
臨也は小さく小さく苦しげに息を吐き出す。
離れていた7年間、特に最初の1年は頻繁にこの夢に苦しんだのだ。嫌な思い出しかない。


臨也は技術を身につけるに当たり、その師と契約を交わした。
契約には必ず対価を要求する彼の師は、己の元を訪れた臨也にも例外なく対価を求めた。
『対価はお前の約束の相手に契約の完了まで会わないことだ。出来ないならこの話はなしだからな』
意地の悪い対価は臨也を試すもので、それが分かっていたからこそ臨也は頷くしかなかった。
学べるものをすべて学び、その間に生じた忌避すべきすべての柵を片付けた頃には、もう中学も卒業という年齢だった。
そうしてようやく静雄に会うための準備が整って、高校で彼らは再会を果たしたのだ。


「どんだけ惚れてるのって話だよねホント」

ため息をついた臨也は、きれいに染められた金髪に触れ、そっと起こさないように気を付けながら梳く。
染めているにも拘らず手触りのいいそれは臨也のお気に入りのひとつだ。
「初めて染めたのは中学の時だっけ?…俺が染めてあげたかったなぁ」
本当に残念だと呟く。

「約束だから、俺以外選んだら許さないよ」

その為だけに努力したのだと臨也は胸を張って言える。
置いていかれるのは夢の中だけで十分だった。否、夢の中ですら許せなかった。
もそもそと布団に潜り込み、静雄の身体に触れない程度の位置に横になる。
規則正しい寝息を聞きながら、臨也は夢を反芻し苦しそうに眉を寄せた。
置いていかれるのは、夢の中のことでもごめんだった。苦しくて苦しくて死んでしまいそうな孤独感に苛まれるのは嫌だった。

「俺を置いていこうとしたらどんな手段を使ってでも殺してやる」

物騒な宣言は眠りの中にある静雄には届かなかっただろうが、臨也は自分自身と『契約』したことでとりあえずの満足を得たのか。
瞼を閉じてゆっくりと降りてきた眠気に身を任せた。

















だから、
「…嫌がられたって置いていったりしねぇよ」
ぽつりと呟く静雄の声を聞くものはいなかった。












※独占欲が強いのはお互い様。
ほぼ独白な感じで。基本俺得。裏設定は表では表面に触れる程度にしかしませんがその分bパートでは全開です。
一応特殊設定が絡む話は直で入れないようにしてあるのですが別な場所に収納した方がいいのかなとか思わないでもないです。が、隠すのめんどいのでしません。


[title:リライト]