あまやかしすぎはいけません
※パラレル、幼馴染。








「シズちゃん」

自分を呼ぶ声に、静雄は視線を本から逸らし下に落とす。
視線の先は自分の膝の上。それが当たり前であるかのように頭を乗せて膝を占領している声の主が、静雄をじっと見つめていた。

「何だ?」

問いかけるついでに片手でそっと頬を撫でてやると、頬を摺り寄せ嬉しそうに笑う。
普段の何か企んでいるとしか思えない…実際企んでいることのほうが多いので間違いではない…笑みとは違う無防備なそれ。
主人の膝で寛ぐ猫を思わせる仕草だが、さて、と静雄は考える。
生憎、静雄の幼馴染であり恋人兼同居人は意味もなくただ呼びたかったからなどという理由で自分の名を口にしたりしない。
そんな可愛いことをするような、そんな些細なことで満足するような、そんな生き物ではなかった。
呼ばれた理由が思いつかず、だが警戒を強めた静雄に臨也は満足そうにまた笑う。
そして。

がぶり。

そんな音がしそうなくらい見事な噛みっぷりで、臨也は頬に当てられたままだった静雄の手に噛り付いた。
噛み千切る勢いのそれは、だが静雄の手にうっすらと血を滲ませただけで。そのことに不満そうに眉を寄せ、臨也はのそりと身を起こす。

「あーあ…ホント全然効かないんだよね。ムカつくなぁ」
取ったままの手の薄い傷跡をぺろりと舐めて開放し、ため息をついた。
「俺はシズちゃんの相手すると傷だらけになるのに、これって不公平じゃない?」

そんなことを言われても困る。そう正直に口に出せば、長々と不平不満を垂れ流されるのは目に見えていたので静雄は口を開かない。
代わりに、まだ何か言い出しそうな口を己のそれで塞ぐことにした。
伸びてきた手に不穏なものを感じたのか、臨也は焦って身を引こうとする。

「ちょっ、シズちゃん!?」

逃れようともがくのを簡単に腕の中に囲って唇を奪えば、僅かに抗議の意を込めて腕に爪を立てられた。痛くもないので無視して閉じた唇を舌でなぞる。途端にぴくりと震えて硬直するが、少しそのままの体勢を留めたあと、臨也は諦めたように体の力を抜いた
爪を立てていたはずの手が仕方ないなと言うように腕を撫でる。
そのことに気を良くして、静雄は臨也の口内を味わうべく口付けを深めることにした。






「…甘やかすんじゃなかった」
後悔先に立たず。
痛む身体と共に臨也がその言葉を本気で実感するのは、休日が終わりを告げようとする深夜になってからだった。












※日常の風景。噛み癖のある猛獣が二匹。甘やかしているのはどちらなのか。


[title:リライト]