あるていどのきけんを覚悟しましょう
※パラレル、幼馴染設定。





side:S



折原臨也は普通の人間だった。
幼い頃から人より少し好奇心が旺盛で人より少し欲求を抑える心が少なかっただけ。
ただそれだけの普通の人間だった。

それが変わったのは、一人の同い年の少年に出会ってから。
よくは分からないまま、臨也は彼の側にいなければと思った。
それはすぐに確信に変わる。
彼以上に興味を引き好奇心を刺激する存在を臨也は知らない。
欲しいものを見つけたと思った。
臨也は努力した。
彼の側に居続けるために必要なもの全てを身に付ける努力を。
そして現在。
臨也は少し普通を逸脱した人間である。





「シズちゃんの馬鹿!」

空気を切る音と共に投げつけられるのは、臨也がつい先ほどまで手にしていたおたま。
それだけなら当たれば痛いが凶器とは言いがたかったろう。
そう。それだけならば。

「投げるな!当たったらどうするんだ!」

叫ぶように抗議する静雄に、彼は鼻で笑った。

「当たれよ。当てようとしてるんだから」

轟然と言い放つ臨也はいつもの貼り付けた笑顔をかなぐり捨てた無表情。
こういう時の彼に手加減は期待できないことを知っている静雄を唸って、とりあえずベッドを文字通り盾にすることにした。
持ち上げて盾にしたベッドに当たる音は重い。衝撃も半端ない。
暫く無言で続いた攻防――一方は攻撃のみ、一方は防御のみだが――は、さほど経たずに途切れた。

「…シズ、ちゃん」

息を切らせた臨也が静雄の名を呼ぶ。
彼の習得するある種の戦闘法は破壊力の割りに自力のみでの攻撃を伴う持久戦には向かない。
それが分かっていればこその静雄の防衛は早々に成功したらしい。

「…ずるいよ、シズちゃん」

呟かれる声には先ほどまでの苛烈な怒りはない。
どうやら発散できたらしいと踏んで、静雄はベッドを元の位置に戻した。

「落ち着いたか」

問う声に臨也は素直に頷く。
彼は気難しく御し難い生き物だが、基本、幼馴染で恋人である静雄に対しては素直だ――だからこそ先ほどのような事態にもなるのだがそれは置いておく。

「約束を反故にしたのは悪かった。ちゃんと埋め合わせはする」
「…ホントに?」

睨み付ける視線は鋭いがさほど疑っていないのは長い付き合いなので目を見れば分かった。

「ああ」

頷く静雄に向かって臨也はとてとてと歩く。
どこか幼くみえるその動きに軽く口元を上げると、むっとした顔でまた睨まれた。

「シズちゃんの馬鹿」

ぎゅうと抱きついてくる細身の身体を加減を忘れないように注意しながら抱きしめる。
ぎゅうぎゅうと締めてくる腕は相当に力が入っているのだろうが、静雄にとってはまるで痛くないので問題はなかった。

「シズちゃんの馬鹿……大好き」



結局のところ、静雄にとっての臨也は、ちょっと普通ではないだけの愛らしい生き物でしかないのである。













※静雄から見た臨也の話。シズちゃんはイザイザに甘い。
臨也さんのキャラを見失いました。でもこのシリーズの臨也さんは基本こんな感じ。シズちゃん好き好き!でも陥れるのは手加減しないよ!みたいな。最初に書いたのはこちらですが、幼馴染パラレルの特殊設定をお題でわざわざ出す必要はないよなと取り止め。おまけになりました。


[title:リライト]