肝試し?のあとのこと 寝る前編
※小話。前回拍手『ちょっとした肝試し?』の続き。









「………ねぇ、シズちゃん」
「……」
「放して欲しいかなぁって思うんだけど」

そう言った臨也に、きゅうっと服のすそが強く握られる。
子供が親からはぐれまいとするかのようなその仕草はいっそ可愛らしいくらいだが、相手が相手だ。小さくやれやれと首を振って、臨也は眉間に寄ってしまった皺をほぐすように指で揉む。

「シズちゃん、幽霊なんて怖くないよ。だいたい学校の幽霊がこんなとこにまで出るわけないでしょ?」
「…でも、」
怖ぇと小さく蚊の鳴くような声で呟かれては、さすがに無理に放せとは言いがたい。
しかし、臨也とて困るのだ。

「お願いシズちゃん。ほんの5分でいいんだ。放して」
「…なんでだよ」

問いかけるその色素の薄い瞳はうるうると潤んでまるで捨てられた子犬みたいだ。
一瞬よぎった可哀相という静雄に抱くには不適切なそれをブンブン首を振ることで追いやって、臨也は声を低くして言う。

「あのね、お願いだから放して」
「理由言わねぇと、放さねぇ」

じっと見つめる瞳は本気で、臨也は観念して声を潜めて理由を口にした。

「…レ…行きたいんだよ」
「あ?」
「〜〜〜ッ!だから!トイレ行きたいんだよ!!」

聞き取れなかったのか首を傾げた相手に思わず怒鳴る。

「あー…行けばいいじゃねぇか」
「だから放せって言ってるの!」
「…扉の前で」
「却下!」

冗談じゃないと目を吊り上げる臨也に、静雄はむうと眉根を寄せて、言う。

「だって、一人で置いてかれたら、怖ぇんだよ」

身長差で自分より上のはずのシズちゃんの目線が上目遣いに感じるとかどういうことなんだよかわいいなんて思ってないし、かわいそうだとも思ってないんだからな!!と混乱気味に胸中で叫んで。
臨也はこれどうしようと頭を抱えたのだった。












※寝た後編(お布団編)へ続くよ!

(mobile版拍手お礼その31 11.05.29初出)