ちょっとした肝試し?
※来神時代。









「………」
「………」
「………」
「………」

沈黙が落ちる。
僅かな明かりに照らされる、不気味な校舎。
夜の学校に侵入した4人組は、思ったより気味の悪い光景にごくりと唾を飲み込んだ。

「ねぇ新羅。やっぱり諦めない?」
「…あれ?ひょとして折原くんは怖いのかい?」
「いやそうじゃないけど。っていうか、怖いのは君じゃないの。さりげなく俺とシズちゃんの間に移動するとかさぁ」
「う、だって、ちょっとアレ不気味じゃないかい?」
「まあねぇ」
「……しかし、本当に入るのか?警報とか鳴るんじゃないか…」

一人まったく異なる感想を抱く門田に、臨也は首を振った。

「それは抜かりないよ。鍵も入手済みだからそこから入ってセキュリティを切れば万事問題なし」
「………詳しい事情が聞かないほうがよさそうだな」
「あっは、俺ドタチンのそういう物分りいいところ好きだな」

そんな会話を交わしてはいるが、誰も、一歩も、動かない。
結局のところ、彼らは夜の学校の思わぬ不気味さにすっかり腰が引けてしまっていた。
元々は新羅の忘れ物――例の新羅が愛してやまない『彼女』に関わる何かであるらしい――に付き合って夜の学校に集まっただけだ。これで明日が休みでなかったら、さすがの新羅もすぐに取って返しただろう。それほどに、夜の学校は不気味に暗く、静まり返っていた。

「…ところで静雄くん、さっきから黙ってるけどどうしたの?」
後ろの静雄にそう問いかける新羅。
対する静雄からの答えはない。
「シズちゃん?」
「平和島?」
振り返った残り2人の視線の先。
静雄は明かりの見えない校舎に表情を強張らせて固まっていた。

「…意外だね。シズちゃんってこういうの平気だと思ってたよ」
「同感」

頷き合う臨也と新羅を横目で見ながら、門田は静雄にもう一度声をかける。
「静雄?どうかしたのか?」
他の二人と違う気遣いを滲ませた声に、静雄はぎぎっという擬音がしそうなほどぎこちない動きで彼を見て、言った。
「…何か、いた」
「…は?」
「何かこう、青白いような妙なもんがふわって…」

「「「…………」」」

これが臨也の言葉だったら、冗談だと笑い飛ばせただろう。
だが、言った相手は静雄だ。臨也の匂いがどうとか言って居場所を探せるような、ある意味超感覚を持った男の科白に、3人とも思わず黙る。
しかも、しかもだ。あの平和島静雄が薄っすら涙を浮かべてプルプルしながら言ったのが先の言葉だとしたら、その真実味のほどは押して知るべし。
しばしの沈黙の後。

「あああ、セルティ!不甲斐ない僕を許して!さすがの僕も幽霊に対抗する方法は考えてなかったよ!」
「…マジか」

叫ぶ新羅と唖然とする門田と。
それから、
「…幽霊かぁ。この学校自殺者なんていたっけ…?」
とのんきな感想を漏らした臨也と。
三者…いや、またその何かが見えたという場所から視線が外せなくなっている静雄を含めて四者四様の反応を示して、彼らは校庭に立ち尽くす。
さて、こうなると誰も動かないだろう。
そう臨也は考えて、こっそり溜息をついた。もちろん臨也だってわざわざ人気のない校舎を警備員の目を盗みつつ徘徊したいなどとは思わない。面白くないし。人間観察なら喜んで飛びつくが幽霊を観察する趣味はない。人間以外は臨也にとっては興味の対象外だ。
だから、あっさり校舎から視線を外して。臨也は、やっぱり明後日まで諦めてよ、と提案すべく新羅の方へ向き直るのだった。



ちなみに、この夜はこの場で解散となったのだが。
完全に固まったままの静雄は臨也が渋々引き取ることになり、結果、彼は抱き枕にされて非常に寝苦しい夜を過ごすことになったであった。












※夜の学校は不気味ですよねという話。

そもそも肝試しじゃなかったし肝試ししてないし!な感じになってしまいました。すみません。
ネタ提供ありがとうございました!

(mobile版拍手お礼その28 11.02.28初出)