6.考える
※『猛獣』設定。来神時代。















相手に対する感情が幾重にも積もって生じるのが恋だと、臨也は思っている。
もちろん一目惚れのような恋もあるだろうが、そこから先はそう違いはない。
相手を知り、熱に浮かされるように相手に惹かれていく。それは一種の熱病のようなものだ。
恋というものを折原臨也はしたことがない。
その過程には興味を持てても、恋そのものを知りたいと思ったことはなかった。
だから、悩むしかない。

「…困ったなぁ」

ぽつりと呟いて、溜息。
行くあてもなく彷徨う臨也の頭の中には静雄のことしかなかった。
静雄のことが好きなのは確実だ。だが、恋かと言われれば首を傾げざるを得ない。
門田に問うてはみたものの、臨也自身は自分の感情を執着であると結論付けていた。
どうしても彼を自分のものにしたくて手を伸ばした当時、臨也はまだ7歳だった。
幼さゆえの強烈な独占欲は、年を重ねた今も臨也の行動の根底にある。
だが、それでも。
当時、己の異質をその時にはすでに理解していたが恋心を同性に抱ける年齢でもなかったはずだ。

「そう考えると、俺のこれってなかなか異常だよねぇ」

強く強く惹かれて、感情に突き動かされるまま欲しいと願った。
まだ未発達だった臨也の感覚がそれでも相手に感じたもの。
それがなんだったのか、今でもわからないままだ。
ただ、あの時出会ったからこそ、相手を好きになれたのだとは理解している。
おそらくあと少し出会いの時期が遅かったら、臨也は静雄に強い嫌悪を抱いたと確信している。
本能的に合わないのだと分かる。それほど、臨也と静雄はかけ離れた存在だった。

「シズちゃんって俺と違って真っ直ぐなんだもん」

だから惹かれたのかもしれないけれど。
だからこそ、臨也には理解できなかった。
再会してからずっと、臨也は悪辣な本性を晒し続けている。
静雄に対してもそれなりに酷いことをしたし、巻き込むこともしょっちゅうだった。
それで愛想を尽かされるとは思っていないが、惚れられる要素は微塵もなかったはずだった。
なのに、静雄は臨也をそういう意味で好きだと言う。
それが少しも理解できない。

「シズちゃんって、やっぱ馬鹿なのかなぁ」

こてんと首を傾げて、また溜息。
静雄が患う熱病の原因。それになりえる自身の美点が生憎臨也には見つけられなかった。
シズちゃん面食いだけどたぶんこれは違うんだろうなぁ。と思う。
本当に、自分でも美化できる要素がそれしか思い浮かばないというのがなんと言うか…ちょっと悲しい。
そう考えながら、臨也ははふ、と何度目かの溜息をつく。
そして、途方に暮れた声で呟いた。

「俺には難しすぎるよ、シズちゃん」












※自分が(外見以外で)惚れられる要素がない自覚のある臨也さん。

もう一つの舞台裏。今度は臨也と臨也の師匠(オリジナルキャラ)。→舞台裏1.5