?.舞台裏1.5
※『猛獣』設定。来神時代。オリジナルキャラ注意!















「センセ、俺どうしたらいいのかなぁ」
「…っていうかな、ここは駆け込み寺じゃないんだぞ?そこのとこ分かってるか?」
「いいじゃん、今日仕事ないんでしょ?」
「………このクソガキ」

唸り声に似た低い声で言われても、臨也はそんなものは気にしなかった。
すでに10年もの付き合いだ。師の怒りの程度は判断できるようになっている。

「俺、シズちゃんをそういう意味で好きになれるかどうか、分からないんだ」

どうしよう、といつになく小さくか細い声で呟く臨也に。
彼はひどく鬱陶しそうな表情をした。

「知るか。それはお前の問題だろうが」
「センセが冷たい…」
「ああそうだな。俺は冷たい。絶対零度の冷たさだ。よってお前の相談に優しく乗ってやることもできないし、寛大な心で愚痴を聞いてやるなどもっての他だ。今すぐ速やかに出て行って、その問題が解決するまでうちに近寄るんじゃない。わかったな」
「…やだ」
「………」
「………」

他人の家のソファの中央に陣取る臨也とその前に仁王立ちする相手。
二人の無言の攻防はしばし続く。

「…ったく、しかたねぇな」

先に折れたのは年長者である師の方だった。
はあと溜息をついて、首を振る。

「ごめんね、センセ」
「…謝るくらいなら出て行け」
「それはやだ」

静雄はここにはやってこない。
『君子危うきに近寄らず』――臨也は静雄を人格者だと思ったことはないが、動物的勘を持つ彼はほとんど本能的にこのマンションを避けてしまう。
それが分かっているから、臨也はここを避難先に選んだのだ。

「センセ、俺、どうしたらいいと思う?」
「…俺に聞く辺り、相当参ってるみたいだなお前」
「うん。俺だってセンセになんて聞きたくないよ本当は」
「やっぱ帰れ」
「やだ」

やれやれと言わんばかりの溜息。
平均的な色素で色づけられた茶色の目が不愉快そうに眇められる。

「俺はね、シズちゃんが好きだしそれは変わらないんだ。…おんなじくらい嫌いだけど」
「そんな相手とつるみたいと思うお前さんの気持ちが俺は分からんよ」
「ん。でも、側にいたい」

かかえたクッションを抱き締めるようにして、切なげな声でそう言う臨也に。
相手は困ったように笑ってから、その頭を撫でてやる。
見上げた臨也の視線の先には仕方のない奴だな、と言いたげな表情。

「今は逃げればいい」
「え…?」
「特別に予言してやるよ」

きょとりと見上げた臨也ににやりと笑って。
表情と裏腹な厳かさで、臨也の師、一部の存在に『雷帝』と称される彼は言った。



「お前は必ず平和島静雄に恋をする。だから、今は安心して逃げとけ」












※師匠と弟子。