ケモノの王様 7
『けもみみパラレル』続編小ネタ連載。









折原臨也と九十九屋真一は一緒に育ったといってもよかった。
臨也は幼い頃から聡明な子供で、自分がどういう立場なのかを正しく理解していた。
臨也の両親は彼を愛している。だが、他の親族からは猫族に生まれたというだけで疎まれてきた。それを理解していた彼は、いつの間にか両親以外で唯一自分を『臨也』という人間として扱ってくれる九十九屋の父親の元に入り浸るようになっていった。それが、九十九屋真一が臨也と育った理由だった。


「この世で最後の黄金竜か」

九十九屋の父親――今は亡きこの世で最後の金色の龍族は、どういう意図を以って自分と臨也を出会わせたのか。
多くの異能を持ち、優れた情報屋である九十九屋ですら、それを知ることはできなかった。分かるのは、自分と同じ願いを持っていたことということだけだ。

「…まったく損な役割だな」

言葉の割に穏やかな顔で笑って。
九十九屋は一回深呼吸した。
もうじきこの場所に、臨也が己の唯一と認めた存在がやって来る。
その存在が、本当に自分の見た未来をもたらしてくれるのか。それを九十九屋は確かめるつもりだった。

「ま、もし期待外れならその時は浚うだけだ」

不穏なことを口にして、振り返った先。
息を切らせた狼族の姿を見つけて、九十九屋は口の端を吊り上げた。
















臨也がいると思われる場所に到着した静雄は、そこに佇む男を見つけて足を止めた。
静雄の存在に気付いたのか、男は振り返り。
そして、問いかけてくる。

「お前が平和島静雄だな?」

明らかな確信を持っての問いに、静雄は怪訝そうな表情をした。
見たことのない男だ。
だが、警戒を強めながらも周囲に残る臨也の匂いを嗅ぎ取り、何となく相手が誰なのかは直感する。

「手前が、九十九屋か」

静雄言葉に、くっと笑った相手は今の今まで抑えていた気配を一気に開放した。
辺りの満たす、強い力を持つ龍族特有の気配。
神経を逆なでするそれに、静雄の警戒心は一気に高まる。

「臨也はどこだ」
「さて、どこだと思う?」
「手前、ふざけてんじゃねぇぞ」
「ふざけてはいない」
「…ここに臨也がいねぇのは分かってる。手前があいつの居場所知らないってんなら俺は手前には用はねぇ」

ふいっと顔を逸らして踵を返そうとする静雄だったが、
「まあそう言わず、折原の話でもしないか?」
と言う九十九屋に、ピタリと足を止めた。
そうだった。この男は臨也の元許婚だったのだ。しかも、おそらくまだこの男は臨也を諦めていない。本能的にそれを察して、静雄はざわりと尻尾の毛を逆立てた。
この男は自分の敵だ。そう断定して、相手を睨みつける。

「ああいいぜ。俺も手前に話しとかなきゃいけないことがあったのを忘れてたぜ」

ぐるると獣の唸り声を響かせた静雄に、相手は不敵に笑っていて。
それが臨也を思い起こさせて、酷く不愉快だった。
















「…先に一応訊いとくけど」
「何だ?」
「手前は、臨也の“元”許婚なんだよな」

静雄の問いに、九十九屋はくっと笑う。

「ああ、そうだ。元だ。今は違う」
「…そうか」
「だが、それもお前の返答次第だな」
「…どういうことだ」

尾を揺らめかせ警戒を続ける静雄。
その様子に目を眇めて笑みを深くし、答えた。

「俺には誓いがある。そして、俺は今それを果たすためにここに居る」
「…意味分かんねぇ…」

意味は分からないが、だが、やはりその人を煙に巻くような言動が、臨也を思い起こさせる。
不愉快だった。臨也と同じ時間を過ごしていたことを匂わせるこの男の存在自体が、静雄には酷く不愉快だった。

「平和島静雄」
「…………」
「お前は臨也が何であるかは理解しているな?」
「…ああ」
「あいつは猫に生まれはしたが龍の血を引く。そして、龍族は一族の掟に縛られる生き物だ」
「…だから、何だってんだ」

ぐるると唸って早く本題に入りやがれと睨む静雄に。
九十九屋は短気なやつだなと呟く。

「あいつはいずれ本家に連れ戻されるぞ」
「ッ!」

その言葉に、静雄は思わずビクリとしてしまう。
いずれ決着をつけねばならない問題であるとは理解していたが、今ここでその話をされるとは思っていなかったからだ。
今の静雄と臨也の婚約は、二人だけの口約束に等しい。臨也の両親と妹たちには認めてられていても、臨也の血の半分が簡単に事を進めてくれないことは分かりきってた。
だからこそ、

「やつらは龍を一匹でも増やすためなら何でもする。そういう連中だ」

その龍族である九十九屋の言葉は、静雄の心に重く響いた。