ケモノの王様 3
『けもみみパラレル』続編小ネタ連載。









帝人と新羅の二人とは途中で別れて、静雄の家に寄ることにした臨也は、静雄とのんびりと街中を歩いていた。
まるで聞かれたくないとでもいうようにどうでもいいような話を続ける臨也に。
静雄は先程の話を蒸し返すべきか迷っていた。
と、

「イザ兄!静雄さん!」

後ろから声を掛けられ、ついでに飛びつかれて。
衝撃を耐えた臨也がすこぶる迷惑そうな顔で振り返る。

「…九瑠璃、舞流…」
「よお、お前ら。相変わらず元気そうだな」
「うんっ。あ、静雄さんも元気そうだね!ね!」
「…肯…」
元気がいいのはいいことだが、少々やかましい。
そんなことを考えながら、静雄は双子の黒い耳を眺め見た。
臨也と同じ黒猫の耳。だが、双子はあの長い尻尾は持っていない。
その理由を知っているだけに、今は複雑な気分だった。

「…龍、か」

呟きは無意識に零れたものだった。が。
聞きとがめた双子が喰いついてくる。

「なになに?静雄さん龍と会ったの?」
「…会…?」
「…あー…いや、そうじゃねぇけど…」

いや。正確に言うならば、会ってはいるのだ。今現在。
きらきらと目を輝かせて見上げてくる少女を見下ろしながら。
静雄は深い深い溜息をついた。
















『龍』という種族がいる。
彼らは他の種とは一線を隔する種族だ。
異能を持つことも彼らの特徴ではあるが、その特殊性は外見にも表れている。
『龍』は外見上、種の特徴と呼べるものを持たない。つまり、獣の耳や尾を持たないのだ。
そう。『龍』という種は、あらゆる意味で明らかに特殊な種族なのである。





「なぁ、お前ら」
「?何、静雄さん?」
「……訊…?」
きょとんと見上げてくる、双子のその姿はまさしく子猫のようなのに。
また溜息が込み上げてくる。
臨也といい、この双子といい…。静雄はつくづくかの種族と相性が悪いに違いない、と思いながら疑問を口にした。

「九十九屋真一って知ってるか?」
「ちょっ、シズちゃん!なんで二人にそれを訊くのさ!?」

そりゃお前。お前が素直に答える気がしねぇからだ。そう思いつつ、視線は双子に固定したまま。
静雄は「どうだ?」と問う。

「うん、知ってるよ。イザ兄の幼馴染で、ずうっとイザ兄にフラれ続けてる人!あとねー」
「おい舞流!」
「私たちと同じ銀龍なんだよ!」
「同」

強いんだよ、と笑う舞流と頷く九瑠璃に、臨也が大きく息を吐いたのが聞こえた。
どうやら、臨也が隠したい情報ではなかったらしい。
だが、まさか銀とは。

「臨也、お前…かなり厄介なのに目ぇ付けられてんじゃねぇか…」
「…仕方ないじゃん、九十九屋が銀龍なのは事実だしどうしようもないし」
「本当に大丈夫なのか?」
「…たぶんね」

複雑そうな表情で答える臨也に、静雄は不安を隠せなかった。















静雄の知る限り、龍という種は他の種族と違い、その色ではっきりとした力の格差がある。特に異能に関しては色によってどの程度の能力を有するかが分かるほどだ。
一番強い能力を持つのが金、次に銀、その下に同格で黒、白、青、赤、黄ときて、それ以下に多くの中間色がくる。
件の九十九屋真一が銀龍であるというのなら、少なくとも5種以上の異能を持つことになる。
「………」
考え込む静雄に、臨也がもう一度「大丈夫だよ」と言うが。
正直、信用できなかった。

「静雄さん、どうしたの?九十九屋さんがなにかしたの?」
「あ…いや、まだされてねぇけどな」
「んー…あ、わかった!イザ兄のことで何かされそうなんでしょ?」
「………まあ、そんなとこだ」

ふうん、と呟いて。舞流は臨也の方を向く。

「イザ兄、何か拙いことになってるの?」
「いや、まだなってないよ。なるかどうかも…微妙かな」
「そっかぁ」
「……」
気楽な調子で相槌を打つ舞流。対して、九瑠璃の方はじっと臨也を見つめているだけだ。
その視線に気付いて、臨也は苦笑した。

「九瑠璃、舞流。そろそろ帰った方がいいよ。俺はこれからシズちゃん家に寄るけど、そんなに遅くはならないから」
そこまで言って、そうそう、と思い出して付け加える。

「お前ら、この前みたいに付け耳落としてなくすなよ」
「分かってるよー」
「…肯…」

じゃあもう行くね!と手を振って離れていく双子に手を振り返して。
臨也は静雄に「俺たちも行こうか」と促して、歩き出した。