ケモノの王様 2
※けもみみパラレル小ネタ連載。『けもみみパラレル』続編。









――放課後。

「あ、臨也さん!」

そう言って嬉しそうに尻尾を立てた少年の姿に。
新羅は「あれ?」と呟いた。

「帝人くん久しぶりだね。元気にしてた?」
「はい!臨也さんも相変わらずそうで良かったです」

にこにこと挨拶を交わす猫族二人。
予想が外れてうーんと唸る新羅に、静雄は首を傾げた。

「どうした?」
「いや、臨也の従兄弟で竜ヶ峰なんて名前だから、てっきり龍族なのかと思ってたんだよねぇ」

ハズレだったか。
そう思って、残念なような、良かったような複雑な気持ちになったが。
いや。龍族は良くも悪くも騒動の元だ。違うなら違う方がいいに決まっている。
そう、新羅は思い直した。

「…龍なんてそうそういねぇだろ。俺だって家族以外の狼なんてほとんど見たことないんだぜ?」
「まあ、そうかもね。一生に一度生で会えれば奇跡って連中だし」
「あー…俺としては、妖精と会うのも充分会奇跡だと思うけどな」
「そうなんだよ!セルティはまさに奇跡のような存在なんだ!ああセルティ!今すぐ君のもとに帰るから待っててね!!」

新羅の話が逸れたのをいいことに、静雄は臨也と臨也の従兄弟だという少年に視線を固定したのだった。



「…何の話、してるんだか」
新羅と静雄の会話に呆れた臨也は、やれやれと首を振って苦笑する。
それから、自分たちを見る――ほとんど睨んでいるも同然の視線だ――静雄に声をかけようとして。

「…あの、臨也さん」

くいっと制服の裾を引っ張られて、再び帝人の方へ顔を向けた。

「なんだい?」

不思議そうな顔で問う臨也に、帝人は何度か躊躇うように口を開いては閉じるという動作を繰り返し。
そして、意を決したようにきゅっと眉を寄せて、言った。

「…九十九屋さんが、池袋に帰ってきているらしいんです」



※この話は出演キャラがそれなりに増える予定です。
そう言えば、未だに新羅が何の動物か出てきてない罠。出す機会を逃し続けてます。

















「九十九屋が?」

真剣な顔になる臨也に、帝人も同じ表情で応じた。

「はい。間違いないです」
「…………」

ゆらりと尻尾を揺らめかせ、考え込む臨也の姿に。
帝人はどうしようと自分も考える。
と。

「おい、臨也」
静雄が臨也に声をかけてきて、そちらに二人同時に振り向いた。
「なに、シズちゃん?俺、今考え事してるんだけど」
「いや、君がいつまでも従兄弟くんを紹介してくれないから声をかけたんだけどね」
「…あ、そうだった」

新羅の言葉にああと頷いて、臨也は帝人の方を向く。

「この子が俺の従兄弟の竜ヶ峰帝人くん。で、こっちが岸谷新羅で、これがシズちゃんね」
「「「………」」」

非常にぞんざいな紹介に三人の呆れた視線が集中するが、臨也はそんなことは気にしなかった。

「あのねぇ、臨也」
「なに。紹介したよ?」
「…………」

思わず溜息が漏れる。
そんな新羅に首を傾げ、ああ、と思い出したように静雄を指して付け足す。

「シズちゃんは前に話してた俺の婚約者」

その言葉に。
帝人は目を見開いて、呟くように問うた。

「…あれ、本気だったんですか…?」
「当たり前じゃん。そんなことで嘘ついて何が楽しいのさ」
「いや、そうじゃなくて…ええと、しず…」
「平和島静雄だ」
「あ、はい。あの、よろしくお願いします。…で、ええと…平和島さんと婚約したって話、たぶん親戚はみんな冗談だと思ってると思うんですけど…」
「はあ?馬鹿じゃないの?」

冗談なんて言うかと唸る臨也と、僅かに眉間に皺を寄せた静雄に。
帝人は困ったようにな表情で二人を見比べた。















「臨也、君ってさぁ…」
「言うなよ、新羅。俺もちょっと思ったし」

本当に信用ないね、と続けようと思った新羅に。
臨也は眉間の皺を消さぬまま威嚇する。

「クソ、だとするとヤバイか?」

そう唸るように言って、臨也は静雄に視線を向けた。

「シズちゃん、君、しばらく知らない人に注意して」
「あ?」
「いいから!とにかく知らない人には注意して!喧嘩売られても挑発に乗っちゃダメだからね!」
「…いや、それは静雄には難しいんじゃ…」
「難しくてもだよ!」

真剣な言葉に、静雄は努力すると答え。
だが、首を傾げる。
そんな静雄の疑問を新羅が代弁した。

「臨也、気になるからちゃんと説明して欲しいんだけど」

その他人事故ののんきな口調に、臨也は珍しく本気で尻尾を膨らませて。

「俺が九十九屋の求愛をずっと蹴ってるからだよ」
たぶんシズちゃんに直接ちょっかいはかけてこないとは思うけど。
そう言った臨也の表情は、苦いものだった。















「九十九屋――九十九屋真一は、帝人君と同じ俺の親戚でね。俺の幼馴染でもあるんだけど、」

はあ、と大きく息を吐いて首を振って。
臨也は心底迷惑そうな顔で言う。

「それこそ俺が小学生の頃から将来結婚してくれとのたまうような変態野郎だ」
「ちょっ、何誤解を招くようなこと言ってるんですか!?確かに臨也さんにはあんなだけど、一応ちゃんとした人ですよ!」
「…帝人くん、君はあれに騙されている」

きっぱり言い切り、不愉快そうにまた溜息。
どうやら臨也の中で九十九屋とかいう人物の印象は決して良くないようである。

「…つまり、その九十九屋っていう人が静雄にちょっかいを出す可能性があるから気をつけろってことかい?」
「まあ、一応ね。たぶん大丈夫だとは思うんだけどさぁ」
「厄介な相手なわけか…」
「…普段はあれでわりとマトモだから嫌いじゃないんだけどね…」

はふ、と息を吐き出して、
「あんなのでも俺より上手だし、一応気をつけるに越したことはないって言うか…」
そう言いながら、臨也は静雄を見た。

「最大の問題は、九十九屋が龍だってことなんだよね」

厄介だよねぇ、あいつらって。
と呟く臨也の言葉は、酷く実感のこもったものだった。



臨也の口にした言葉に、新羅と静雄が息を呑む。

「…龍って本物のかい?」
「本物も偽物もないよ。龍は龍だ。最強最悪の希少種」

はあと溜息を吐く臨也に、帝人もつられたように溜息をつく。

「まあ、否定はできないですよね…」
「うん。だからさ、とにかくシズちゃんはしばらく身辺に気をつけて」
「あれ?でも親戚は婚約は冗談だと思ってるんじゃないの?」
「…九十九屋は知っているさ。あいつはそういう男なんだ」

だからとにかく気をつけて、と真剣な顔で念を押す臨也に。
静雄は頷いて分かったと応じた。

「でも、何かあったら呼べよ」
「うん。いざという時はお願いね。頼りにしてるよ」