※シズイザ小話。









あー…キスしてぇな。と静雄はゆるい溜息を吐きつつ思う。
目の前の真剣にパソコンに向かう横顔はいつ見ても――表面的な見た目だけならば――秀麗だ。
静雄が臨也と身体を繋げるようになったのは数年前。
何が切欠だったか、はっきりとは思い出せないのだから、おそらく大したことではなかったのか、思い出したくないほどろくでもないことだったのだろう。
ただ、数年前に身体を繋げるようになっても、静雄は臨也とキスしたことはなかった。
最初の時に、「キスは好きな人とするべきだよ」とやんわり止められて以来、いつも二の足を踏んで出来ないでいる。
恋人でないから、キスはすべきでないという臨也の考えは、正直よく分からない。じゃあなんでそれ以上は許すんだよ、と思ってしまう。だが、恋人ではない、とはっきり一線を引かれてしまっては静雄も手を出すことは出来なかった。

「……おい、ノミ蟲」
「…何かなっていうか、俺そういう名前じゃないんだけど」
「煩ぇ、それよりまだ終わらねぇのか」
「まだ」
「…ちっ」

舌打ちして、ソファにぼすりと乱暴な動作で背を預ける。
睨みつけても相手はまるきり相手にする気がないのか、視線すら向けてこない。
それがまた苛立たしくて、静雄は相手への嫌がらせも込めてあえてじっと舐めるように観察してやる。
…本当に、きれいな顔だ。パーツ一つ一つが洗練された、職人が丹精こめて作り上げた精巧な人形のようで。
無意識のうちに静雄の唇から溜息が漏れる。

――キスしてぇな…。

またそう心の中で呟いて。静雄は「早く終わらせろよ」とだけ言って、これ以上欲求が募らないようにと目を閉じた。












※また嫌がられたら…と思って、ちゅーするのを躊躇う静雄さん。
たぶん臨也からキスしない限りは彼はこのままちゅーできないと思います。

(mobile版拍手お礼その30 11.05.29初出)