紙一重だという話
※来神時代。









平和島静雄は実は頭がいい。
そう、臨也が知ったのは本当に偶然だった。

「ま、結局伝えられなきゃ天才だろうがなんだろうが意味ないけどね」

ぱらりと捲る問題集は、汚い字で公式が書き込まれている。斬新な解き方というか何というか。
普通に公式を当てはめればいいところを新しい公式を作って解くものだから、計算式を省かれるとどこから答えを導き出したのかまるで分からなくなる。…そう。平和島静雄の頭は、悪くない。むしろすごくいいのだと思う。
だが。

「ねぇシズちゃん。君の国語能力が壊滅的なのは確かなんだから、ここは素直に普通に教科書どおりの公式を使おうよ」
「…こっちの方が早いんだよ」
「それでも、先生にそれを説明できなきゃ意味ないでしょ。でなきゃきっちり全部計算式まで書いて提出しなよ。そうすりゃさすがにあの頭の固い連中だって文句は言わないと思うんだけど?」
「めんどくせぇ」

お手上げだ。そう説得を諦めて、臨也ははあと溜息をつく。
臨也は自分もそれなりに頭がいいと自負しているが、この怪物の頭には敵わない。はっきり言って納得のいかないことだが、静雄は間違いなく自分より頭がいいと臨也は正しく理解していた。そして同時に、伝える努力を面倒だと投げてしまうこの男が酷く馬鹿で愚かであるということも、分かっていた。
…この頭があれば何か世紀の大発見くらい成し遂げられそうだというのに。天才と呼んで差し支えない頭脳が誰にも注目されないまま埋もれている事実に、臨也はやれやれと首を振るしかない。
言語能力と伝達能力が壊滅的すぎて考え付いたことの10分の1も伝えられない男を哀れみの目で見て、呟く。

「君ってあれだよね」
「?」
「紙一重ってやつ」
「…喧嘩売ってんなら、買うぞ?」
「…一度君の頭の中を見てみたいよ。絶対理解できないだろうけどさぁ」

異常によく回る頭だというのに、言語能力と伝達能力の低さで完全にマイナス。
しかも短気だから伝わらないことにすぐ苛立って暴れだす。
どうにもならないな、とさじを投げて。
臨也は、まあ俺だけが知っていればいいか、と独占欲丸出しな科白を吐いた。












※実は頭のいいシズちゃんと、頭いいのに馬鹿ってどうなのと思ってる臨也さん。

途中で脱線…。ちなみに管理人は理数は壊滅的でした。
ネタ提供ありがとうございました!

(mobile版拍手お礼その29 11.02.28初出)