ちらり、りらりと、臨也は少し先をいく静雄の大きな手に視線をやる。
深夜。
池袋での仕事が終わって帰宅しようと駅へ向かった臨也の前に現れた静雄と一頻りいつもの命がけの喧嘩をした後。
捕獲された臨也の誘いに乗った彼と新宿へと向かう途中。
ふと、その手が目に入った。
その手は普段は臨也に対しては暴力以外ふるってこないが、意外に繊細で細かな作業もこなすことを知っている。
あの大きな手のひらに触れられるのが、臨也は好きだった。
(手、繋ぎたいなぁ)
本来は、持って生まれた力と正反対の優しい気性の男だ。
今すぐ実行したところで、嫌そうな顔はしても振りほどきはしないだろう。
でも。
「…無理だね」
自分の性格的に不可能だ。
きっかけなしに手を繋ぐなど、絶対無理。
臨也はふるふると頭を振って、小さく苦笑を浮かべる。
と。
「手前、何とろとろ歩いてんだよ」
歩みの遅くなった臨也に苛立ったのか。
静雄がくるりときびすを返して戻ってきた。
そして――、
「ちょ、シズちゃん!?」
「うるせぇうぜぇ黙れ」
がしりと臨也の手を掴んで、引っ張って歩き出す。
掴む力は決して強くない。むしろ、静雄の力を考えれば柔らかく包む程度のものだ。
意味が分からない。いや、臨也がのんびり歩いているのが気に入らなかったのだろうが。と、考えて。
あれ?と臨也は首を捻った。
ずんずんと大股で歩く静雄は一切臨也を振り返りはしない。
だが、街頭が照らしてもなお暗い中、微かに見えた静雄の耳は、真っ赤だ。
臨也の望んだ通りに繋がれた手と手。
それに目をやり、臨也は再度あれ?と首を捻った。
そもそも静雄はそれまでだって振り返ったりしていなかったのだから、臨也の気持ちを汲んだとは思えない。
だから。つまり、それは。
(うわっ、たぶん俺今顔真っ赤)
火照った顔を俯かせて。
臨也は照れ隠しにからかう代わりに、静雄の手をぎゅっと握り返した。
※手を繋ぎたいけどタイミングが掴めなくてじりじりしてた二人でした。
ありがち展開になりましたが、書いてる本人は楽しかったです。
ネタ提供ありがとうございました!
(mobile版拍手お礼その23 10.11.30初出)