無自覚恋愛事情
※来神時代。無自覚シズ⇔イザ。「あ?」
そう声を漏らした静雄に。
新羅が「何かな?」と訊く。
「…いや。それ、何があったんだ…?」
静雄がそう訊いてしまうのも無理はない。
新羅の髪には小さな髪留めが付けられていた。花の形の飾りがあしらわれたそれは男がするには不釣合いだが、新羅の場合、童顔なせいかさほど違和感がないのが逆に違和感を感じる。
左側だけを髪留めで止めて若干すっきりとした前髪。
それを見つめ、静雄はもう一度、それ、と髪留めを指差す。
「ああこれ?これは――」
「あれ?シズちゃんじゃん」
「!!」
答えようとした新羅の言葉を遮って聞こえたのは、天敵のそれで。
静雄は過剰なまでの反応速度で勢いよく振り返る。
―――と。
「…………」
目にしたものの衝撃をどう言い表せばいいのだろうか。
静雄は衝撃のあまり何も言えず、固まったまま、じっと相手を凝視するしかなかった。
「やあ、臨也。ちゃんと買えたかい?」
「うん」
静雄の存在などなかったかのように新羅の横に腰を下ろした臨也が、購買のものと思われるパンを袋から取り出す。
その一連の動作を緩慢な動きで追った静雄は、そこで漸く、あることに気が付いた。
新羅の髪留めと、先ほど自分に多大な衝撃を与えた臨也の髪留めは、同じものだった。付ける位置こそ逆だが、合わせ鏡のように髪型もまったく同じ。
「…ッ」
なんだかよく分からないが、酷くもやもやした気分になる。殴りたいのとは違う。だが、酷く、不愉快だった。
「手前、その髪の――」
「ん…ああ、シズちゃんまだいたの。あんまり静かだからいなくなったか、ひょっとしたらそのまま息が止まって死んじゃったかと思ったのに」
どんな理屈だ。
そう言いたいかった。ついでに言えば、いつものように殴ってしまいたかった。
だが。
「…………」
静雄は黙って、いつの間にか握ってしまった拳を開く。
上目遣いに見上げる――座っているので当たり前だが――臨也の髪に、花の髪留め。前髪を留めたことで見えているおでこと、何故かいつも以上にきれいに見える顔と。予想外の衝撃を与えたそれは、未だその妙な効力を保っていたのだ。
――男の癖に似合うとかありえねぇだろ!!
何故か火照る顔を隠すように踵を返し。
静雄は足早にその場を去った。
しかし、しっかり脳裏に焼きついたいつもと違う髪型の臨也の姿はなかなか消えず。
しばらくの間、静雄を悩ませたのだった。
※お花のピン留めと臨也さん。
たぶん二人がおそろいの髪型&ピン留めだったのは、臨也の悪戯を新羅が放置した結果だと思われます。
無自覚シズ⇔イザとのことでしたが、うっかりシズ←イザ要素が抜け落ちました…。
ネタ提供して下さった方、ありがとうございました!
(mobile版拍手お礼その19 10.10.27初出)