好悪が逆転する薬を飲ませてみた 臨也編
※普通にお互いが嫌いな二人。小話。









「シズちゃん、ねえシズちゃんってば」
「…………」

うぜぇ。本当にうぜぇ。
そう思いながら、静雄は拳を握りしめ感情を抑えようと努力していた。





「シズちゃん、俺、シズちゃんのこと大好きだよ」

そう臨也が言い出したのは数十分前。
一瞬何を言われたのかわからず自動販売機を持ち上げたまま硬直した静雄に。
臨也はにっこりと笑ってもう一度言った。

「俺はシズちゃんが好きだよ」

その後、一気に青ざめた静雄が臨也を担ぎ上げて新羅のマンションに走って、そして、現在に至る。




「ごめんね」

新羅はそう言って手を合わせた。
だが、にこにこ笑いながら言われては額面通りに受け取ることは不可能である。

「知り合いに面白い薬を貰ってさ。つい臨也で実験しちゃったんだよ」
「…つい、でやるんじゃねぇよ。どうすりゃ戻るんだ?解毒剤はあるのか?」
「ないよそんなの。試作品だし、そもそも効くかどうかの保証もなかったんだよ?」
「…じゃあ、いつ効果が切れるんだ」
「たぶん1日か2日くらいだと思うんだけどねぇ」
「長ぇな…っていい加減離れろノミ蟲!」
「やだ」
「やだじゃねぇええっ!」

怒鳴る静雄に臨也は悲しげな表情をした。

「シズちゃんは、俺のこと、嫌い?」
「…っ」

殺したいほど嫌いだ!といつもなら叫べただろう。
だが、相手は本気で静雄のことを好きだと思っているのだ。たとえ臨也であろうと、本気でしょげ返られては罪悪感が沸く程度に、静雄は健全な思考の持ち主であった。

「あはは、本気で逆転しちゃってるんだね」
「て め え の せ い だ ろ う が!」
「いや、嫌いなものを好きになる薬なんて面白いよねぇ」

完全に他人事の口調でいう新羅の首を絞めようとする。…が。

「おいノミ蟲その手を離せ」
「やだよ。っていうか、新羅ばっかり構わないで俺を構ってよシズちゃん」
「………」

どうすればいいんだ。
殴りたいが殴れないジレンマを抱えて、静雄は低く唸った。
本当に勘弁して欲しい。

「シズちゃんが俺を嫌いでも俺はシズちゃんが好きだよ。シズちゃんにだったら何されてもいいし、何でもしてあげたいよ」
「だったら今すぐ俺から離れてくれ」
「それはやだ」
「…………」

本当に、切実に、どうにかしてくれ。
気が狂いそうだ、と呟いて。
静雄は頭を抱えるしかないのであった。












※次は静雄編。
(mobile版拍手お礼その14 10.09.13初出)