苦手なものの話 いっこめ
※シズイザ小話。









「いぃざぁやあぁくぅん」

がこん、と派手な音を立ててドアノブごと玄関の扉をひしゃげさせて。
静雄は臨也のマンションの部屋に押し入った。
そのまま、リビングにいるだろう臨也の姿を探して足を進めようとして――。

どん、と軽い衝撃を腹に受けて止まる。

見下ろせば、ぎゅうっと背中に腕を回して抱きつく――というか、縋りつく?――状態の天敵の姿。
虚を突かれた静雄は目を瞬かせ、首を傾げた。

「おい…?」
「しずちゃん」

ぎゅうぎゅうと締め付けてくる腕は痛くもなんともないが、酷く必死だ。
泣きそうな声で呼ばれて、意味が分からず首を傾げる。

「…どうしたんだ、手前?」
「うう…っ…アレ、」
「アレ?」
「アレ出たっ。あの黒くてカサカサ動くアレッ」
「…あー…それってひょっとしてゴ――」
「言うなよ!言うな!!聞きたくない!!」
「………」

どうやら例の家庭内害虫が出たらしい。
しかし、名前を聞くのも嫌とは…。
静雄は天敵の意外な弱点に苦笑した。

「しずちゃん今だけは大好きになってあげるから、アレとってお願い!」

俺アレがいると思うだけでもう部屋に入れないよっ。
そう言って静雄を見上げる表情は必死で、うっすら涙まで浮かべた顔に毒気も怒りも完全に抜けてしまう。

「…ま、いいけどよ」
「シズちゃん大好きっ」

ぎゅうっと腕の力が込められる。
普段まず口にしない言葉を連発する臨也に苦笑を深くして。
意外に可愛い弱点を持った天敵兼恋人のために、静雄はそれがいるらしい室内へ向かって足を踏み出した。












※ありがちネタで。
どうでもいい話ですが、管理人はGが引っくり返ってもがいてる姿がすごく嫌いです。あれの腹側マジきもい。
(mobile版拍手お礼その8 10.07.31初出)