夢の話  side-B
※『猛獣の飼い方10の基本』設定。









夢を見た。
シズちゃんと俺が、あの日出会わなかった世界の夢だ。
ほとんど何も変わらない世界で。
俺たちは本気で憎しみ合って、殺し合っていた。
でも、その世界でも俺はシズちゃんに恋をして、認めたくなくて足掻いて。
そして、最後には諦めた。

「俺はお前が嫌いだ」

はっきり告げられた言葉は、真っ直ぐに胸に刺さる。
だって、シズちゃんのそれは心からの言葉だった。
痛くて痛くて、耐え難いそれ。
それでも「俺も嫌いだよ」と普段通りの仮面を被って強がる『折原臨也』に。
馬鹿だな、と思った。
でも、納得もした。俺が彼ならたぶん同じことをする。
繋がっていられる方法がそれしかないなら、それを選ぶ。
それくらい、『折原臨也』にとって平和島静雄は良くも悪くも特別な存在だった。





覚醒は唐突だった。
ぱちりと目を開けて、泣き出しそうな気分にまた閉じる。
きつく、きつく、目を閉じて。
胸の痛みをやり過ごす。

「ッ、」

最悪だ。なんて夢だ。
冷や汗が伝う感触に身震いした。
その背に手が触れる。

「…臨也?」

声とともに腕に包まれて、緩く抱き締められる。

「どうした?」

眠気を払いきれない声で、シズちゃんが問う。
その声に、酷く安堵してほっと息をついた。

「なんでもないよ。ごめん起こして」
「いや、べつにいいけどよ」

俺の不安を察しているのか、ぎゅうっと腕の力が強くなる。

「シズちゃん」
「ん?」
「好きだよ」
「…おれもだ」

うん。そうだね。俺のシズちゃんは、そう言ってくれる。
でも、あの世界では違ったんだよ。あの世界で、『折原臨也』はひとり喪失への恐怖と戦っていた。シズちゃんとの繋がりが絶たれるのが怖くて、必死に繋ぎ止めるために嘘を重ねてた。

「…っ」

またぶり返す痛みに呼吸が詰まる。

「いざや、」
「しずちゃん?」
「なに、なきそうな顔してんだよ。なんだ、こわい夢でもみたのか?」

子供をあやすような声で言われてしまう。
優しく背を撫でられて、強張った体の力を抜く。
…そうだね。こわい、夢だった。

「…うん。すごく、怖い夢を見たよ」

返事の代わりに、キスされた。
啄ばむような、優しく触れるだけのそれが嬉しかった。
そして、思う。
たぶん俺は、『折原臨也』のようにシズちゃんが隣にいないことに耐えるのは無理だろう、と。
俺はもうこの温もりを知ってしまっている。
この温もりなしでこれから先一生過ごせと言われたら、たぶん耐えられない

「好きだよ、シズちゃん」

だから、俺を置いていかないで。
そう、心から願った。


(もし置いていかれたら、たぶん俺は君を殺すと思うから)












※途中で着地点を見失った話その2。
(mobile版拍手お礼その7 10.07.13初出)