夢の話  side-A
※シズ←イザ小話。









夢を見た。
シズちゃんと俺が幼馴染だなんていう滑稽な夢だ。
ほとんど何も変わらない世界で。
俺たちは不思議なほど深く、惹かれ合い愛し合っていた。
殺し合い同然の(ひょっとしたら俺よりも酷いやり口の)喧嘩もするけど、幼馴染で恋人というその位置は変わることなく。
共に、歩き続けていた。

「臨也、好きだ」

耳元で囁かれる低音はやけに甘く鼓膜を震わせる。
それに、「俺も好きだよ」と『折原臨也』は心底幸せそうに笑って応えた。
それが、酷く痛かった。
俺には決して与えられないものを手にした彼。
ただいとおしげに己の唯一を見つめるのその目が、たぶん妬ましかった。
俺はそんな目を向けることどころか言葉にすることすら許されないのに。





目覚めは唐突で。

「は、」

大きく息をついて、肺の中の空気をすべて押し出してしまう。
夢の中とはいえ妬ましいなどと思ってしまった自分が、気持ち悪かった。
ばかばかしい。どれだけ女々しくなれば気が済むんだ。
そう自分を叱咤する。
俺は、諦めたんだ。俺を心底嫌ってるシズちゃんは、俺のこんな気持ちを認めてくれるわけないから。

「ははっ、ホント…最悪」

呟いた言葉は酷く弱々しくて。
泣きたい気分になった。

「あーもう…」

明日、シズちゃんに会いに行こう。
それで、あんな夢さっさと忘れてしまおう。
あんな幸福で、辛い夢、覚えていたら耐えられそうにないから。

「…シズちゃん怒るだろうなぁ」

何投げられるかな。
あんまり当たったら痛そうなものは遠慮したいけど、無理だろうな。


(でも、その間だけでいいから俺だけを見ててよ)












※着地点を見失った話その1。もう一個『猛獣』サイドに続きます。
(mobile版拍手お礼その6 10.07.13初出)