「……黙れ、その口にファスナー縫い付けるぞ」
※お題『組込課題・台詞』より。シズイザ小話。甘め。










それは二人そろっての休日の午後。
昨晩、たまにはと連絡を寄越した静雄を部屋に招いて午前中一杯までベッドで過ごした臨也は、今はのんびりと読書を楽しんでいた。
ほんわかとした日差しが暖かい窓辺で、臨也は幸せそうに目を細める。
彼の視線の先には、ベランダで花――ちなみにもらいものだ。臨也に花を育てる趣味はない――に水をやる静雄の姿がある。

「シズちゃんもマメだねぇ」

くすくす笑って、光の中の彼の背を見つめる。金髪に光が当たってきらきらと眩しい。
如雨露を片手に戻ってくる静雄に笑いかけ、臨也は手にしていた本をテーブルの上に置いた。
手招きすればちょっと待てと言われて。
素直に待てずに文句を言いながらついて行けば、鬱陶しそうな顔をされる。

「しーずちゃん、シズちゃんシズちゃん」
「…少し黙れ」
「やだ。構ってよ」
「本読んでたんじゃねぇのか」
「飽きた」
「…そうかよ」

呆れた声でやはりちょっと待てと言われてしまい、臨也は不満げに唸った。
如雨露を置いた静雄は次は洗い物を片付ける気らしくキッチンに向かう。
ついて歩く臨也の存在はほぼ無視だ。

「シズちゃん、構って。洗い物なんてしなくていいから」
「先に片付けとかねぇと落ち着かねぇんだよ」

むうと膨れた臨也がきゃんきゃんと文句を言い始めるのを尻目に、静雄は黙々と用事を片付け――ようとしたが、その手が止まる。
臨也の文句が不穏な方向に流れ始めたのに気が付いたのだろう。
あやうく不当な噂を流されるところだった静雄は今日は甘えたい気分らしい気まぐれな相手を睨みつけ、一言。

「……黙れ、その口にファスナー縫い付けるぞ」

本気の声と視線に、さすがの臨也もぴたりと黙る。
いやそれ笑えない。そう言いたいが、口を開いたと同時に牽制のように頬を抓られた。

「いっ、イタイイタイ!マジ痛いから!!」
「じゃあ黙れ。そんで大人しく本読んで待ってろ」

手加減していても充分痛い攻撃にさらにぎろりと鋭い視線まで追加されて。
さすがの臨也もついに諦めた。

――あーあ…シズちゃんってば根が真面目すぎなんだよ。

ふてくされつつ、渋々「わかった」と口にする。
放された頬がひりひりと痛むのをさすって、溜息一つ。

「後でちゃんと構ってよ?」

念を押すように未練がましく言う臨也に。
静雄はにやりと笑って答えた。

「おう。いっくらでも可愛がってやるよ」

その声に含まれる色にどうにもよろしくないものを感じて、怒らせたか、と失敗を悟る。

「…そういう意味じゃないよ」

一応申告はしてみたが、たぶん聞き入れてもらえないだろうと諦めて。
臨也は今度は逆にどうやって静雄から逃れるかの算段を始めた。












※ある午後の攻防。とりあえず今回はシズちゃんの勝利。
(mobile版拍手お礼その4 10.07.02初出)


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