「これがペットロスってやつかぁ……」
※お題『組込課題・台詞』より。シズイザ小話で、別れ話の後の話。









シズちゃんと別れた。
付き合っていたわけではないので別れたというと若干の語弊があるが、まあとりあえず別れたという言葉が一番近い。
身体だけの付き合いを続けるのが急に嫌になった。ただそれだけ。
それだけを理由に「面倒だから」と別れを切り出したのは俺で、一方的な言葉ににシズちゃんは何か言いたげにしていたけど無視して帰ってきた。
だというのに…。



なんか何も手につかない。
何をやっても思考は半分以上シズちゃんに向かっていて、我ながら気持ち悪い。
ぐるぐると巡る感情が、なにひとつ明確な形をなさないまま心の内で渦巻いている。
重い。苦しい。…それとたぶん、寂しい。
はふ、と溜息をついて座ったソファの上で足を抱えて丸まった。
なんだろう。こういう状態を示す言葉があったはずだ。
…………。
…ああ、そうか。あれだ。

「これがペットロスってやつかぁ……」
「…手前、言うに事欠いてそれか?」

――え?

ぎょっとして、振り向いた。
その視線の先に何故かシズちゃんがいる。
何で気付かなかったんだ俺!?っていうか何普通に不法侵入してるのシズちゃん!?
…あ、いや。これは普通だ。世間の常識からは外れてるけど、シズちゃんにとっては普通だった。
何で気付かないかな俺…。こんな図体デカイのが側まで来てたってのに。ああやだ。そこまで落ち込んでたとか気持ち悪い反吐が出そうだ。

「…なんでシズちゃんがいるのかな?合鍵は潰して捨てておいてって言ったよね?…殴りに来たって言うんだったらできれば今日は遠慮したい気分なんだけど?ああ、それとも何か忘れ物?だったらさっさと取って帰ってよ。俺忙しいんだよね」

じっと何も言わずにシズちゃんは捲くし立てる俺を見ている。
ホント頼むから早く帰ってよ。その顔見ていたくないんだ。…俺結構今本気で落ち込んでるみたいなんだよ。だから、本当に早く帰って。

「…忘れもの、か」
「シズちゃん?」
「まあ、ある意味忘れもんかもなぁ?」

溜息ひとつついて。
シズちゃんが俺に手を伸ばす。
そのまま頭を撫でられて、不覚にも涙が出そうになった。(もちろんそんな失態はしないけど)

「ちっとは素直になれよ」
「…なにそれ?」
「気付いてねえなら、教えてやるよ」

なあ臨也。
そう囁き声に似た声音で言って、シズちゃんは俺の頬を両手で挟む。
真正面で向き合う体勢になってようやくまともに見たシズちゃんの目がなんだかすごく真剣で。
首を傾げ…ようとしたけど、シズちゃんの手の力が強くてそれは無理だったから眉を顰めるだけにとどめた。

「忘れ物したんなら、」
「ああそうだな」

そう言ってシズちゃんが顔を寄せてきて。
唇に馴染んだ感触が伝わって。
その感触に心底安堵する自分に戸惑う。
何度も何度も触れるだけのキスをされて、心地よさに泣きたくなった。


――別れ話、撤回できないかな。


ふいにそう、思って。
このキスの後に言ってみようと思いながら、俺は優しい接触を全身で感じたくて、目を閉じた。












※ベタなネタで。…さすがにペットロスは失礼極まりないと思うよ。
(mobile版拍手お礼その2 10.06.20初出。)


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