「嫌いな所言うより好きな所言うほうが難しいんだけど」
※お題『組込課題・台詞』より。シズイザ小話。









好きか嫌いかで問われれば、迷うことなく嫌いだと言える。
臨也にとっての静雄はそういう存在だ。


「で、なに?いまさらそんなこと聞いたのって何か理由があるんだよね?」

いきなりの問いかけに、臨也は眉間に皺を寄せてそう訊いた。
「いや…」と言葉を濁すらしくない静雄に、ふむと考える。
どうせ新羅あたりになにか言われたのに違いない。
交友関係の狭さはお互い様で、必然静雄の相談をする相手は限られていた――上司の男に恋愛相談をしていたことを知る身としては、余計なことを言って自分が相手だと悟られるなよと思うが。
今回の場合、“相手が自分を好きなところ”と限定されている。そんな興味本位としか思えないことを訊く人間は静雄の知り合いにはそう多くない。
結論として、静雄の質問の出所は自分たちの関係を知っている新羅がもっとも有力で、次点で純粋に静雄を心配しているセルティあたりがくるのだ。

「…ねぇシズちゃん。俺と君って確かにお付き合いしてるけど、そういうこと聞かれるような関係じゃないと思うんだよね」
「それは…そうだけどよ…」

付き合っているにもかかわらず、お互いを心底嫌いあっているのも本当なのだ。
だから、臨也としては大前提として嫌い>好きの構図が来るものだと思っていた。
だというのにこの質問とは、と溜息が出てくる。

――でもシズちゃんだもんねぇ。

良く言えば素直、悪く言えば単純な彼のことだ。付き合っているうちにベクトルが変わってしまうこともあるのかもしれない。
歓迎はしないが、別に相手に嫌えと強制する意味はないし強制できるものでもなく。
臨也は問題をまあいいかと放り投げた。
相手が相手だ。最初から思い通りにしようとも思わなくなって久しい。
…だからシズちゃんは嫌いなんだ。そう思うが、それこそいまさらだ。
だから、臨也は静雄の問いに普通に思ったままを答える。

「…正直さ、嫌いな所言うより好きな所言うほうが難しいんだけど」

溜息をつきつつそう言って、臨也は首を傾け静雄を見上げた。
真剣な眼差しが注がれていることに、呆れ半分で首を振る。
馬鹿らしいが相手は本気で、臨也も仕方なく本気で考えた。
嫌いなところならいくらでも言える。だが、好きなところと言われれば悩んでしまう。
声が好きとか大きな手のひらが好きとか――本当は優しいところが好きとか。
相手が求める答えを口にするのは容易いが、そんな具体例を口に出すのは嫌だった。
ならば、そのことをどうはぐらかした上で伝えるのが一番良いのか。ふう、と溜息が漏れた。

「ホント、俺考えれば考えるほどシズちゃんが嫌いなんだよね」

そう口にする。
見下ろす相手の茶色の目。それが一瞬浮かべた色にまたひとつ溜息をついて続けた。

「嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで、正直嫌いでしょうがなくていつだって死んじゃえばいいのにって思ってる」
でも。
「なのに、理由もなく…好き、なんだ」

その言葉に静雄の目が見開かれて、臨也は笑った。

――そうだね。その顔は嫌いじゃない(好きだ)。

素直になれない男は、そう思いながら次の“嫌いじゃない部分”を引き出すために新たな言葉を口にする。
そうして、辛さと甘さを持った彼の言葉は静雄を一喜一憂させ続け、静雄が当初の目的を忘れるまで止むことはなかった。












※なかなか素直に言えないひとの話。
(mobile版拍手お礼その1 10.06.19初出。)


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