3.幼馴染は予想以上に臆病者でした。
※3話目。










誰でも我慢の限界ってものはあるだろう?
俺にだってある。
逃げ回るシズちゃんを捕まえられずにすでに6日だ。いい加減、いろいろ限界だった。

「………」
「…ええ、と…臨也?」
「…ん」
「大丈夫?」

心配そうに俺を見る新羅とドタチンに、俺は不機嫌な顔のまま首を振る。
大丈夫なわけがない。昼間はシズちゃんを探し回って(逃げられて)、夜は携帯とにらめっこしながらあの単細胞のことを考えてるせいですっかり寝不足だ。
ああ腹立たしい。
大体俺が逃げるならともかく、シズちゃんが逃げるとかどういう料簡なんだ。そりゃあちょっとばかり昔から好意に対して臆病な男だったけど、これはない。これはないよシズちゃん。そんなんじゃ結婚とか絶対出来ないって。ああもう。まあ、させてやる気ないけどさ。

「シズちゃんが悪い」
「は?」
「おい、臨也?」

怪訝そうな声を出した新羅と、不穏な空気をいち早く察したらしいドタチンと。
二人の視線を浴びながら、俺は眉根を寄せた。
…シズちゃんが悪い。俺に、こんなことを考えさせたんだから。
シズちゃんが俺に告白しなきゃ。シズちゃんが俺から逃げなきゃ。
こんなこと、たぶん気付くこともなく、ただの幼馴染…ただの友達で終われたはずだったのに。

「逃げられれば追いたくなるんだよ」

そう、言い訳してみるけど、俺は犬じゃないのでそんな習性あったりしない。
だから、これが、たぶん俺自身も気付かなかった俺の気持ちってやつなんだろう。

「ねぇ、新羅、ドタチン」

呼びかければ、返事をしてくれる友人たちを見上げて。
俺は先ずはこの二人に報告しておこうと思った。
何だかんだ言って心配してくれる彼らには、告げておきたかった。

「俺、シズちゃんを俺のものにしようと思うんだ」

俺の言葉に二人はきょとんとした顔を見せる。
そして、僅かな沈黙の後、言った。

「…本気か?」
「熱ないよね」

失礼にも額に手を伸ばしてくるもんだから、速攻で叩き落としてやる。
…まあ二人がそんな反応をするのも分からなくはないよ?数日前の俺だったらありえないからね。でも、それはあくまで数日前。
悶々とシズちゃんのことばかり考え続ける羽目になった俺は、ついに(ある意味間違っている)答えに辿り着いたわけだ。
このままシズちゃんの手を離すことになるくらいなら、付き合った方がよっぽどマシ。
そう考えついてからも、俺は結構色々考えて続けてみたんだよ?無理だと思ったシズちゃんとのキスとか…あと、まあ非常に品のない話だけど、シズちゃんを思い浮かべて抜いてみたりもした。…正直、普通に興奮した自分が結構ショックだったけどね。

「本気だよ。シズちゃんが俺から離れたり誰かのものになるくらいなら、その方がずっとマシ」
「…マシって」
「臨也、よく考えろ。お前はそれで良くても静雄はお前に惚れてるんだ。そんな気持ちで付き合ったりしたら可哀相とは思わないのか」

払われた手を自分の額に当てて、新羅が盛大な溜息をついて。
ドタチンは説教モードで俺の気を変えようとしてくる。もちろん、そんなの想定の内だ。
甘いよ二人とも。こう見えても俺は本気なんだからさ。

「なんで?俺はシズちゃんが好きだよ?それこそ、シズちゃんになら抱かれたっていいくらいにね」

そう言ってやったら、今度こそ二人は本気で目を見開いて絶句した。
ははっ、そんなに意外かな?でも実際そう思うんだよ。まあホントのところはやってみなきゃ分からないだろうけど、たぶん俺はシズちゃんが俺に夢中になっている姿を見られるならそれだけで嬉しいし幸せだと思う。
これの名前が独占欲だろうが恋だろうがどうでもいい。重要なのは、あの存在が俺のものになるってことなんだから。

「…瞠若驚嘆を通り越して、驚天動地だよ。…明日槍が降らなきゃいいけど」
「失礼だね君」

呟くように言った新羅に一応そう返してから。
俺は窓の外を見た。
…まあいいや。
とりあえず、なんにしてもシズちゃんを捕まえなきゃ始まらない。
今日はまだシズちゃんは登校してきていない。でも遅刻でも必ず一回は教室に顔を出すから、今日も来るはずだ。
どうすれば確実に捕まえられるか。
俺は今日こそ絶対に捕まえると意気込んで、作戦を練ることにした。












※ようやくシズ⇔イザに…といいたいですが、どうあがいてもシズイザシズにしか見えない。