平和島家のお隣さん
※年の差。平和島兄弟→臨也。甘いというよりほのぼの?










平和島家の兄弟は、その日連れ立って隣の家を訪ねた。
隣人の名は折原臨也。年齢は自称永遠の21歳。
仕事はいまいち何をしているのか分からないが、存外面倒見のいいこの隣人は、平和島家の兄弟の想い人でもあった。
チャイムを鳴らすこと2回。
眠そうな目をこすりながら顔を出した臨也に、静雄と幽はほぼ同時に(かわいい!!)と思う。
だが、そんな二人の思考になど気付いていない臨也は小さく欠伸をして「おはよ」とだけ口にする。
「おはようございます。お昼ですけど」と律儀(?)に返した弟と違い、静雄は、

「上がっていいか?」

と、遠慮なく訊く。
中学生にもなって挨拶も出来ないんだねシズちゃん、という嫌味にムッとして「おはよう」と返す辺りはまだまだ子供だ。

「どうぞ」

そう言って中に引っ込む臨也に続いて、二人も家の中に上がり込む。

「二人ともお昼まだ?」
「まだです」「まだだ」

ほぼ同時に答えに笑って、臨也はじゃあ一緒に食べようか、と提案した。

「いいんですか?」
「ははっ、構わないよー。って言うか、君らも確信犯の癖にそう訊くのはどうかと思うよ?」

どうやら魂胆はばれていたらしい。
気まずそうな顔をした兄弟に、臨也はくすくす笑ってその頭を交互に撫でてやる。
「まあ、俺も一人で食べるよりは君たちと食べた方が楽しいからね」
だから歓迎するよ。
そう言った時の臨也の笑顔が二人の心臓を直撃したのだが。
当然そんなことは彼には知る由もないことだった。


***


「君たちのご両親は今日もお仕事?」
「はい」
「臨也、これこっちでいいのか?」
「うん。あとこれも持っていって」
「おう」

臨也は両親が忙しい二人のために頻繁に食事を振舞ってくれる。
その臨也の手伝いをするのはもう二人にとっても当たり前のことで、至極なごやかに昼食――臨也にとっては遅い朝食――の準備が進められていた。

「でもいいのかい?別に俺に合わせてフレンチトーストにしなくてもいいんだよ?」
「いいんだよ。俺は臨也の作るフレンチトースト好きだ」
「僕も、臨也さんの作る料理は全部好きです」
「おや、嬉しいことを言うね」

そんなやり取りをしながら、用意を始めて30分後には食卓の上にいわゆる朝食メニューと呼ばれるような料理が並んでいた。
自分用にはフレンチトーストとコーヒーだけだが、臨也は食べ盛りの子供二人にちゃんと野菜やスクランブルエッグ、ベーコンを乗せた皿とスープを用意していた。
「本当に簡単なものしかなくて、ごめんね」
材料があまりなくてさ、と謝る臨也に幽が首を振る。

「僕たちが、突然来たのが悪いですから」
「うーん…でも、やっぱり成長期なんだからちゃんと食べないとね」

そろそろ買出しに行かないとなぁ、と呟く臨也。
それに、蜂蜜をたっぷりかけたフレンチトーストを頬張っていた静雄が反応する。

「じゃあ、俺が荷物持ちしてやる」
「え、いいの?」
「おう、まかせとけ!」

胸を張って答える静雄に、じゃあお願いしちゃおうかなと言って。
臨也は美味しそうに自分の料理を食べる子供たちに目を細めた。
二人ともかわいいなぁ。和むなぁと思いながら、自分の分を口に運ぶ。
と。「臨也さん」と、幽に声を掛けられる。

「なんだい?」
「臨也さんの料理、これからもずっと食べたいです」
「おや、なんだがプロポーズみたいだねぇ」

否。みたいではなく、それははっきりプロポーズの言葉だったのだが。
臨也はそうは受け取らなかった。子供の可愛らしい発言ににっこり笑っただけだ。――まあ、小学生にプロポーズされてもそうそう本気にとる人間はいないだろうが。
「俺も!臨也の飯、ずっと食いたい!」
「うん。ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよシズちゃん」
便乗した静雄の告白も、当然スルーだ。
なんで自分たちの本気を分かってもらえないだろうか。
複雑そうな表情をする平和島兄弟をよそに、臨也は打算も何もなく、ただ純粋にこの二人は本当にかわいいなぁと思ったのだった。












※まさか二人が成人してからもプロポーズされ続けることになるとは夢にも思っていない臨也さん。