※シズイザ。










ちゅっと音を立てて、触れるだけのキスをして。
ん?と静雄は首を傾げた。
かすかな違和感。
腕の中の相手をしげしげと眺めるが、どこもいつもと変わりない。
憎たらしいほど整った顔だ。
くん、と鼻を鳴らす静雄に、臨也が不思議そうな表情を浮かべる。

「なに?」
「あー…いや、なんだろうな」

よく分かんねぇ、と答えて。
ぺろりと臨也の唇に舌を這わす。
きょとんとした顔でされるがままになっている相手に、これ幸いと口付けを深くした。
「ぅ、ん」
やはり、違和感。
臨也の匂いの中に知っている別の匂いが混ざっている。
なんの匂いだったかと考えながら、深く深く貪って。
くったりともたれかかってきた体を抱きとめて、静雄は一度深呼吸した。

「あー…あれだ、グレープフルーツ」

ようやく思い出した。
ほんのりとしかしない匂いはなかなか記憶を刺激してくれなくて思い出せなかったが、間違いなくそうだ。
静雄のその言葉に、臨也は一度目を瞬かせ、「シズちゃん鼻もいいんだねぇ」と呟く。
鼻先で匂いの元を探すような動きをするとくすぐったそうな顔をして身を捩って、くすくすと笑う。

「シズちゃんくすぐったいよ」

匂いは強くないのだから、香水ではないだろうと考えて。
静雄はそこでそういえば、と思い出した。
確かめるために、もう一度、相手の唇に舌を這わす。
そして、やはり最初に違和感を感じた場所が匂いの出所だと確信して。
静雄は改めて、頬や首筋にもキスを落とす。

「ちょっと、もういい加減にしてよ」
「いいだろうが」
「よくないよ」
「手前がうまそうな匂いさせてるのが悪い」
「はあ?なにそれ」

俺は食い物じゃないよ、と抗議する臨也は、だが本気で抵抗はしていなかった。
だから、静雄もやめてはやらない。

「まったく…誰のせいで俺がリップクリームのお世話になってると思ってるの」
「?」

意味の分からない言葉に、甘噛みしていた首筋から顔を離して問いかける視線を送る。
すると、臨也は「ああもう、ホントに分かってないんだもんなぁ」と呟いて、静雄を睨みつけてきた。
「シズちゃんがしょっちゅう俺の口舐めまわすから、乾燥してガサガサになるんだよ。それでなくても冬場は乾燥して荒れやすいのにさぁ」
切れると痛いんだから、と文句を言う恋人は、どうやらそれでもキスするなという気はないらしい。
そう勝手に結論付けて。
静雄は、ほのかに柑橘系の香りがするその唇に己のそれを重ねるのだった。












※リップクリームが手放せない季節になったので、つい。