世界で一番短い愛の言葉
※シズイザシズ。お好きなほうでどうぞ。










「臨也」

低くて、そのくせどこか柔らかな声が、自分の名を呼んで。
臨也はその声音を不思議に思いながら顔を上げた。

「何?」

問えば、目の前の男は、もう一度臨也の名を呼ぶ。

「だから、何かな?」
「…別に、ただ呼んでみたくなっただけだ」

臨也、と己の名を舌の上で転がす相手に。
臨也は「あのねぇ」と溜息をついた。
そんな甘い声で呼ばれたのは初めてだ。…いや、情事の最中は聞いたことがあるかもしれないが。少なくとも、平時に聞いたことのある声音ではない。

「俺の名前なんか、呼んだってちっとも楽しくないと思うんだけど…」
「そうでもねぇぞ」
「………」

また、呼ばれて。
臨也はついに居たたまれずに俯いてしまった。
まるで、愛の言葉でも囁かれてる気分だ。
優しく、甘く、柔らかく。
そんな風に自分の名前を呼ぶ恋人に、さすがの臨也も赤面せずにはいられなかった。

「…シズちゃん…それ、なんか恥ずかしい」
「そうか?」
「うん」
「俺は恥ずかしくねぇな」
「…………」

ああもう。勘弁してくれ。


「…シズちゃん」
「何だ?」

首を傾げて問うくせに、静雄の顔に浮かぶのは確信犯的な笑み。
つまり、この男は臨也がどう感じるか分かった上で、ずっと名を呼び続けているわけだ。
真っ赤になった顔で睨んだが、静雄に殊更優しい声でまた名を呼ばれ、唸るはめになる。
…恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
そう思って、臨也は「もう」と呟く。
すごく恥ずかしいし、心臓に悪いので止めてほしいとも思うが。
だが、その呼び方は、嫌いではない。
だから、せめてもの報復に。

「静雄」

ありったけの愛しさを込めて。
臨也は静雄の名を、口にした。












※愛の告白。