※臨也+波江。ある日のこと。










「うーん…」
「ちょっと、もう電車くるわよ?」

唸る臨也に呆れた視線を寄越して、波江は、もし間に合わなければ置いて帰ろうと決める。
出張に付き合ったのはこれが初めてで、そして、たぶんこれが最後だ。
ここは新宿でもなければ池袋でもない。
本当ならば誠二のいない場所になど用のない波江が、それでも付き合ったのはその土地に欲しいものがあったからだ。
「通販で取り寄せればいいのに」という上司の言葉に、自分の目で見て選ぶのだと言えば、そうかいと面白くもなさそうに返された。
ともあれ、波江は目的のものを手に入れ、臨也も仕事を無事に終わらせて、これから帰途につこうというところだった。
だが。

「どうしようかなぁ…」

うんうん唸る上司の前には並べられたアクセサリー類。露天の、地面に直に敷かれた布の上、並ぶそれらを真剣な目で見つめる臨也は、波江の言葉など聞いてはいない。…値段はそこそこ高いが物はいいように見える。臨也の財布の中身を考えれば、悩む理由があるようには思えないというのに、臨也は先ほどからずっと、その露天の前で悩み続けている。
電車の刻限は迫っているというのにのんきなことだ。

「…大体、誰に贈るのよ」

呟きは独り言のつもりだった。
だが。

「はいはい、まあ確かにそうだね。贈りたい人はいるけど、あげても喜びそうにないし、止めるよ」

そう言って、臨也は立ち上がる。
ふう、と溜息をついて。

「浪江さん、時間大丈夫?」
「大丈夫じゃないわよ。誰かさんがいつまでも悩んでたせいで急がないと間に合わなくなったわ」
「あれ、言ってくれればよかったのに」
「言ったわ。貴方が聞いてなかっただけで」

あれ?そうだった?と笑って見せる上司に。
波江は溜息をついて、問う。

「買わなくていいのかしら?」
「いいよ。さっきも言ったけど、喜んでくれるはずないからさ」

肩を竦めてそう言って。
臨也は「行こうか」と歩き出した。



駅に向かう道を歩きながら、波江は臨也に声をかける。

「貴方の想い人は、さすがにプレゼントを捨てたりはしないんじゃないかしら。たとえ、それが貴方からの物であっても」

その波江の言葉に、臨也は僅かに眉を持ち上げ驚きを表現して見せた。

「まるで俺の想い人が分かるみたいな言い方だね」
「分かるわよ」

隠す気もないくせに、と。
そう口にすれば。
臨也は、「答え合わせはしないよ?」と楽しげに笑う。
それを見るとはなしに見ながら。
素直に相手に告白することもできない上司の恋の行く末に興味などない波江は、馬鹿馬鹿しいわ、と小さく溜息をついたのだった。












※シズ←イザで、ある日の臨也さんと浪江さん。
意味不明ですみません。