にわとりとたまご、どっちが先でも結果は同じ
※なんでか学生時代の自分と入れ替わっちゃった臨也の話。24歳シズイザは付き合ってる設定。










「…?」

臨也はあれ?と首を傾げた。
視界に映る見覚えのある景色。
だが、それはもうだいぶ前に取り壊されたはずのビルであったり、どこぞの自動喧嘩人形が壊してそのままなくなったりしたものだった。

「…どういうことだ?」

ピタリと足を止めて呟く。
視界の先、先程首を捻ったビルより少しだけ遠くに。
非常に見覚えのある制服姿があった。
自分の知る彼よりも背が低く、どこか幼い顔立ち。

「シズ、ちゃん…?」

懐かしい、と言ったほうがいいその姿に、臨也は呆然と立ち尽くすしかなかった。
そのままぼんやりと近づいてくる学生──静雄を見ていると、相手も臨也の存在に気付いたらしい。
あ、と思った時には遅かった。

「…いぃざぁやぁああ手前ぇやっと見つけたぜ」

近づいて初めて気付いたが妙にボロボロの制服。
どうやら彼はとてもご立腹の様子である。

「ッ!」

予想通りというか何というか。
手近の標識をへし折って投げつけてきた相手に思わず引き攣る。
どうやら静雄は臨也の格好が学生服ではないとかそんな瑣末なことは気にしていないらしい。
というか、頭に血が上ると周りが見えなくなるタイプなのだから気付いてさえいないのかもしれない。

「俺、そんなに変わってないのかなぁ?」

一応背だって多少は伸びているし、あの頃ほどひょろひょろではないはずなのに。
静雄は一目で臨也だとわかったらしい。まさか匂いでわかったとかじゃないよねぇ、と思いつつ、避けた標識がアスファルトに突き刺さるのを眺める。

──しかし、なんだってこんなことになっているんだろうか。

どう考えてもタイムスリップなどというSFな体験をしているらしい自分に溜息をついて。
何はともあれ今は逃げるべきだ、と臨也はくるりと向きを変えて走り出した。
後ろから怒号が響くが、振り向く気はない。

「いざやぁぁああ!!待ちやがれッ!」
「いやだよ冗談じゃない」

なんだか普段と全然変わらない受け答えをして。
投げつけられたバイクを足場にビルの側面にある雨樋に手を掛けようとして。

「うわっ」

その前に雨樋を本日(たぶん)2本目の標識に破壊されてやむなく着地。
やはり振り返ることなく着地と同時に走り出す。
そんなことをしばらく繰り返す内、ふと。

──ああそうだ。思い出した。

臨也はようやく思い出した。
そして、同時にできれば思い出したくなかった、と心の底から思う。


あれは高校二年の夏休み直前──いつものように静雄に他校生をけしかけた後だ。
臨也はふと街の景色がいつもと違うことに気がついた。
そこにあるはずのものがなくて、知らないものがそこかしこにあった。
どういうことだと首を傾げた直後、目の前に現れた男に臨也は目を見開いた。
サングラスにバーテン服。格好は違うし背も高い気がするが、それは間違いなく静雄だった。
最早本能とかそんなレベルで咄嗟に逃げを打つが、あっさり捕まって──


「なんで、忘れてたかなぁ…ッ」

いや。今の今まで忘れていた理由はなんとなくわかっているのだ。
正直、あの後忘れたいほど色々ショックなことがあって。
だから、臨也の脳は強すぎる負荷に耐えかねて記憶を閉じ込めるなどという手段に出たのだろう。

「ははっ、我ながらなんて都合のいい…」

がこんと音を立てて勢いよく転がるコンビニのものと思しきゴミ箱。

「この頃のシズちゃんってどんな感じだったっけ…」

攻撃が24歳の静雄ほど執拗でない気がする。
ひとつひとつの攻撃に間がある上に、どこか精度も甘い。

「まあ、日々化け物っぽくなってるみたいだし」

確実に臨也の知るあの静雄の方が強いのだろう。
そう思って、苦笑して。
臨也はさてどうするか、と逃走経路を計算しつつ考えた。

「…とりあえず、帰ったら覚えてろよシズちゃん…」

今頃17歳の自分に会っているのだろう天敵──一応、本当に一応、恋人でもある男に恨み言を吐く。
自分がこのタイムスリップを覚えていなかったのは明らかに24歳の静雄のせいだ。
しかもすっかり忘れている臨也に何も教えなかったのだ。
…いや、もし17歳のあの時にもう一度知らされたりしたら臨也は全力で静雄を避けるようになっただろうが。

「ああクソッとにかく…って、やばッ」

うっかり考え事に気をとられ過ぎた。
背後に迫った看板に焦るが時既に遅し。
まともにそれと激突する羽目になった臨也は、そのまま気を失ったのだった。












※後編に続く。

書いてる途中でシズちゃんは1月生まれなんだから23歳なんじゃないか…?と思いましたが…まあいいか。