お遊びが過ぎる
※お題『駆け引きの恋十題』より。連作シズ⇔イザ。









都会の星のほとんど見えない夜の空を見上げて。
臨也は小さく溜息をつく。
数時間前に静雄と別れてから、臨也は事務所兼自宅であるマンションに帰ることもせず、ただ道を歩いていた。

「あーあ、どうするかなぁ」

自分があの時とってしまった態度は明らかな失策だった。
後からそれに気付いてももはや取り返しはつかなくて。
だから、今後どうするかが臨也の目下最大の悩みだった。
静雄の態度もやはりいつもとは違っていたが、それは自分ほど顕著でなものはない。
あの場面で臨也がいつも通りにしていられたならば、たぶん二人の関係は元通りになるはずだったのだ。

「しくじったなぁ」

今更ながら本気で悔やむ。
でも、もうどうしようもない。
臨也は静雄がずっと好きだった。
そして、相手に嫌われている自覚はある。臨也は静雄とどうにかなりたいと思っていたわけではないし、どうにかなれるとも思っていなかった。
ただ、からかって喧嘩をして、関わり続けられればそれでよかったのだ。
なのに。

「後悔先に立たず、かぁ」

あのたった一回の、感情に流されて犯した過ちが、すべてを狂わせてしまった。
触れられて感じた幸福感はあの一時だけのもので。
すぐに、心はむなしさだけに満たされた。
それでもあの時の感覚が何かの拍子にに思い出されて、二度とそれが得られないことに胸が痛む。

「チャンスを逃すのは馬鹿がすること、か」

自分が言った台詞を思い出して、笑う。
では、長いつきあいの中で決してなかったわけではない関係を変えるチャンスを、わざと見逃し続けた自分は馬鹿なのだろう。
もし、手を伸ばしていれば、あの温もりが手に入ったのだろうか。
そう考えて、その仮定の馬鹿馬鹿しさに笑う。いまさら意味がないのだ。すべてはあとのまつり。
あーあ、と心の中で大きく溜息をついて。
臨也は空を仰いだまま目を細める。

「この辺が潮時かな」

こうなってしまった以上、もう遊びは終わりだ。
なによりも、もう臨也には静雄と相対して普通でいられる自信はない。
だから、醜態を晒さないためにも、二度と静雄と関わらないくらいの覚悟を決めなければならなかった。
臨也とて抱かれるまでは、思いもしなかったのだ。
こんなにも、自分が静雄に惹かれていたことに。
ともすれば人間に対するものよりも遙かに強く強く、どうしようもなく惹かれていることに。
次、なにかで拒絶されることがあったとしたら、それに耐えられる自信は臨也にはなかった。
それが、どうしようもなく、怖かった。
だから。

「…忘れられたら良かったのに」

臨也は小さく呟いて、目を背けることに決めた。
逃げよう。どこかここではないところへ。
それが、臨也の結論だった。












※悩んで悩んで逃げようとする臨也さん。


[title:リライト]