「あいたいあいたいあいたいいますぐあいにこい!」
※お題『組込課題・台詞』より。『猛獣の飼い方10の基本』設定。>君って時々、すっごく我侭だよね。










それは、仕事が忙しくなって池袋のマンションに帰らなくなって数週間が過ぎた頃のこと。
俺――折原臨也はその日も仕事に追われていた。

「…さすがに疲れてきたかなぁ」

そう呟くと、「なら少し休みなさい」と浪江が言う。
先程からそれに「もう少し」と答えること数回。そろそろ本当に一度休んだほうが良いか、と臨也は欠伸をしつつ頷いた。

「ちょっとだけ休むよ。緊急だったら起こして」

そう言って立ち上がり、のろのろと寝室へ向かう。
パタリと扉を閉めて、もう一度欠伸をして数歩先のベッドへダイブした。
柔らかな感触に、ふう、と小さく息を吐いて全身の力を抜く。
と。
持っている携帯のひとつが鳴り出した。
かかる頻度が低く滅多に聞かないその着信音に、臨也は何度か瞬いた。

「…珍しいなぁ」

そう言って、ごそごそと携帯を引っ張り出してディスプレイに表示された名前を見つめる。
完全なプライベート用のその携帯には『シズちゃん』という文字が表示されていて。
臨也はうーんと唸って携帯が鳴り止むのを待つ。
最後に会ってから結構経っている。本当は声だけでも聞きたい気分だが、実際聞けば絶対に物足りなくなる自信があった。
だから、出ないと決めて臨也は黙って相手が諦めるのを待つ。
だが一向に鳴り止む気配がない。じきに留守番サービスだかに繋がるのは分かっているので臨也は放置して目を閉じた。
それから程なくしてぷつりと音が途切れる。

「…ごめんね、シズちゃん」

会いたいなぁ、と心の中で呟いて。
臨也は降りてきた眠気に身を任せ、ゆるゆると瞼を閉じた。






ふと意識が浮上し、臨也は小さく欠伸をしてメロディを奏でるそれに手を伸ばした。
ぼんやりと眺め二時間ほど寝たことを確認し、鳴り止んだ携帯をポケットに突っ込もうとして。

「あれ?」

また鳴り出した音楽に首を傾げることになった。
何度目かは知らないが、この様子ではおそらく臨也が眠っている間もかけていたのだろう。

「仕方ないか」

そう一人ごちて、通話ボタンを押す。

「やあ、シズちゃん。元気?」
『出るのが遅ぇ。何回かけさせる気だ』
「何回かけたのさ?」
『…覚えてねぇよ』
「そっか、ごめん。さっきまで仮眠中だったんだ」
『…あー…わりぃ』
「いいよ。目覚ましになったし」

久々に聞く声は機械越しでも心地よく耳に響いて。
臨也は見る者がいないのをいいことに目を細めて寂しげな表情をした。
弱音を吐くのは好きではないが、予想通り、一度聞いてしまえば際限なくそれ以上が欲しくなる。
そのことを実感して、ため息をつくしかない。

「…会いたいよ、シズちゃん」

ぽつりと呟くように告げると、息を呑んだ気配があった。

『………臨也』
「なに?」
『俺も会いてぇ…クソッ』

電話越しに苛立たしげに唸られて、臨也はその様子に苦笑する。
うん、そうだね。本当に会いたいよ。
肥大する欲求を断ち切るのが難しくなる前に電話を切ろうと口を開く。

「シズちゃん俺そろそろ――」
『臨也ッ』

急に怒鳴られて面食らう。

「ええと…何、しずちゃん?」
『ホント会いてぇ…。会いたい会いたい会いたい。ああそうだよッ、いますぐ会いにこい!!』
「シズちゃん、大丈夫?壊れた?」
『違ぇ…なあ…臨也、いますぐ会いにこいよ』

懇願の響きが耳を打つ。
どうしようもなく、胸が詰まった。

「…あと、一時間だけ待ってよ。俺だって会いたいけど、報告しないといけない案件があるからすぐは無理」
『なら一時間だけ待つ。だけどよ、もしそれで来なかったら』
「来なかったら?」
『俺がそっち行く』
「…それは、困るなぁ」

事務所は今、浪江がいる。
そして、終業時間まではまだあと二時間ほどあった。
普段ならば静雄が来たところでそれほど問題ないのだが、お互いに飢えている今はだめだ。
醜態をさらすのが目に見えていて、臨也はそんな自分を笑うしかない。

「頑張って終わらせるから、家で待っててよ」
『さっさとしろよ。一時間以上待たねぇからな』
「了解」

また後で、と言って電話を切って。

「じゃあシズちゃんのためにも頑張りますか」

くすくす笑いの混じる声でそう言って。
臨也は最低限必要な用件を終わらせるべく、大きく伸びをしてからベッドから下りた。












※ちなみに着歴すっごいことになってます。(もはやストーカーレベル)


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