頭の中はお前でいっぱい
※お題『駆け引きの恋十題』より。連作シズ⇔イザ。









もそりと布団の中で動いて。
静雄は眠るのを諦めて目を開けた。
昼間の臨也の反応が気になってしまい眠気は訪れる気配がない。

「…ちっ、あのノミ蟲野郎」

静雄の動き一つ一つに常とは違う緊張の色を見せる臨也に。
強く出ることができず見逃したのはほんの数時間前のことだ。
あれは紛れもなく怯えだった。
そう思い、胸が痛んで唸る。
たった一夜の行為だ。あれが全てを変えてしまった。
手に入らないと、触れられないと、そう思っていた彼をたった一晩だけでも独占できたという記憶が逆に静雄を苦しめる。

「ッ」

触れれば素直に反応する身体に溺れて無茶をした記憶はある。
しかし、それが原因なのかというと首を捻らざるを得ないのだ。
あの時静雄にそれを許したのは臨也で、彼はただの一度も静雄を拒否する発言はしなかった。
身体のあちこちに赤を散らして、それでも足りなくて、もっと欲しいと貪って。
一度臨也を抱いてしまえば、静雄の臨也を欲しがる気持ちはますます強くなった。

「…んで、あんな野郎が良いんだ」

臨也を好きになってから何度も自問したそれ。
はっきりとした答えが出たことはない。
それでも静雄は自分が抱くこの想いが何かよく分かっていて。
そして、この問題に関しては結局それがすべてだった。
好きなのだ。あんなに嫌ったあの男が気になって仕方がないのだ。
余すとこなく触れて、抱き締めて、キスして。
あの存在を自分だけのものにしたかった。
なのに、昼間の臨也の目は確実に静雄を拒絶していて。
それが強い打撃として心に残った

深く溜息をついて、静雄は身体を起こす。
がしがしと髪を掻き毟って、何度か低く唸り声を上げて。

――ああチクショウ。そうだよ考えるだけ無駄じゃねぇか。

静雄は顔を上げて中空を睨む。
あの日、目を覚ました後、臨也は静雄に抱かれたことを嫌悪しなかった。
普通嫌っている男に抱かれるなんてできるわけない。臨也はあれで潔癖なところがあると知っている。
男は初めてだから優しくしろと静雄に訴える目は真剣で。嘘ではないと静雄は直感でわかったから、できるだけ丁寧に身体を開いたつもりだ。
そして、抱かれている最中の臨也の目に、静雄への拒絶の色は一切なかった。

――それに、あいつはあの時確かに俺が欲しいって言ったじゃねぇか。

ニュアンス的には駒として欲しいという意味だったのだろうが、静雄はそれで構わなかった。
もとより駒として自分をくれてやる気などないのだ。臨也がどう思おうと構わない。
ただ、臨也が自分に執着しているのなら多少ごり押ししてでも無理やり関係を繋いでしまえばいいのだ。
振り向かせる方法など後から考えればいい。
そこまで考えて、静雄はくつりと喉の奥で笑う。
それは、間違いようもなくただの開き直りだった。

「チャンスを逃がすのは馬鹿がすること、だよなぁ、臨也?」

ベッドの上で躊躇する静雄にそう言ったのは臨也だ。
言葉には責任を持つべきだろう?
そう呟いて、静雄はようやく晴れ晴れとした笑みを浮かべた。












※悩んで悩んで開き直る静雄さん。


[title:リライト]