『クロネコ』2
※特殊設定。黒猫パラレル。オリジナル要素満載注意!黒猫を拾いました。2








折原臨也は黒い猫の姿をしたイキモノである。
人語を解し喋る猫など普通はいないだろうが、少なくともそれを知らない他者の目にはただの猫に映るはずだ。
回りくどい言い方しかできないのは、彼が自分に関することをほとんど語らないからである。
彼は今、平和島静雄という人間に拾われてそのアパートに居候している。





拾われて二週間、傷も完全に癒えていた。
だが、意外に居心地のいい場所に臨也はなかなか出て行くことができずにいる。

「でも、そろそろ出て行かないとね」

ひとところに留まらず放浪するのは臨也の種の習性のようなものだった。
目立たずひっそりと。でないと、『  』に見つかってしまうから。

「…でも出て行きたくないなぁ」

ころりと、今は主のいないアパートのベッドに転がる。
出て行くなら静雄のいないうちにこっそり出て行くべきなのだろう。臨也は小さくため息をついてまたころりと転がった。
暖かい手のひらを思い出して、沈む。誰かに撫でられるなんてどれくらいぶりの体験だっただろうか。少なくともここ数十年は記憶にない。

「俺、すっかり甘やかされ慣れちゃったよねぇ」

壊さぬように優しく優しく、細心の注意を払って撫でてくる手は本当に心地良い。
傷つき弱りきっていた臨也を拾った静雄という人間は、怒らせさえしなければその怪力に似合わぬ性質の男だった。名の通りの静かで穏やかな時間を臨也に提供してくれる。
怒りに我を忘れれば暴力の化身と化すが、本来は優しくて誰かを傷つけることを嫌う、だからこそ他人と触れ合うことには臆病すぎるくらいの人間。
臨也は人間という種を“食餌”として愛し長く観察を続けていたが、あんな人間は初めてで。まさに規格外というべきその肉体に大いに興味は湧いた。
人外の臨也から見れば明らかにただの人間に過ぎないのに、普通の人間にはありえない力を揮いなおも進化を続ける突然変異。
もっと彼という人間を知りたかった。でも。

「シズちゃん暴力は嫌いだって言ってたし…出て行かないと、まずいよね」

ひとところに留まればいつかは気付かれる。いつかはここを出て行かなければならない。なら傷が浅いうちがいいのだ。
臨也はぱたりと力なく尻尾を揺らす。
臨也が何を食べているのかを知っても嫌がらず、むしろ自分のそれを提供し続けてくれている静雄。さすがの臨也も、そうまでされれば彼を傷つける選択は選べないのだ。

「…おなか、減ったな」

ゆるりと目を閉じて、自分の下で静かに存在を殺している影に意識を集中すれば、ざわざわと揺らめく人々の感情の波が見える。
池袋という街は活気に満ち溢れていて、臨也にとっては食餌に事欠かない場所だった。
揺れる波の中から強いものを適当に選んで、影が飲み込む。生き物の出す“感情の波”を糧として生きる以上、臨也は生き物のいる場所を離れることが出来ない。だから、代わりに街から街へ移動を続けるのだ。

「あ、シズちゃんだ」

伸ばした意識の先、見つけた人一倍強い波につい、ぱたりと嬉しそうに尻尾が揺れる。
借金の取立てをしているのだという静雄は今仕事中なのだろう。瞬間に爆発する怒りの感情が影を通して伝わってきた。

「あーあ…今日も怒ってるなぁ」
静雄を怒らせた馬鹿な人間を嘲笑して、臨也はのそりと起き上がる。

―今日シズちゃんの顔を見てから、それから出て行こう。

小さな黒猫はそう決めて、次に行く街を考えながら静雄が帰ってくるのを待つことにした。












※家出計画(違)をたてる黒猫。たぶん次で完結。
オリジナル設定満載の俺得話ですみません。