「あ、今邪推したでしょう。」
※お題『組込課題・台詞』より。シズイザだけどほぼ臨+帝。本当にあの人たちって迷惑だ。








「あれー?帝人くんじゃん」

知った声が聞こえ、帝人はその声のしたほうを向く。
手を振って存在をアピールしてから近づいてくる相手に一瞬迷惑そうな顔をして見せたが、当然のように臨也は気にしなかったので無意味だった。

「臨也さん、どうしたんですか?」
「ちょっと仕事でね。元気?」
「はい。臨也さんは相変わらずみたいですね」

答える帝人に臨也は少しだけ苦笑する。
それにおや?と思うが、疑問は口に出す前に解消された。

「まあ、大体はね。今日はさすがにちょっと調子悪いけど」

知ってるでしょと雰囲気だけで問いかけてくる相手に合点がいく。
「そう言えば昨日静雄さんに追いかけられてましたよね」
どうやら昨日目の前を走り抜けていった臨也と一瞬目が合ったように感じたのは、帝人の気のせいではなかったらしい。
「うん。もうしつこいのなんのって…ホント有り得ないよね」
辟易とした声音が吐き出される。
「…へえ」
明らかに何らかのリアクションを誘導しようとする言葉に、だが帝人はそう相槌を打つだけにとどめた。
帝人は数少ない池袋最強と新宿の情報屋の関係を知っている人間のひとりであり、どうしたところで額面通りに受け取れない程度には彼らを知ってしまっている。
余計なことを口にすれば、言葉を武器とする目の前の相手は嬉々として帝人をからかってくるはずだった。
そう思って短くつつきようのない言葉を選んだはずだった。
だが。

「あ、今邪推したでしょ?」

相手が悪かった。臨也は帝人の言葉尻に滲んだ気配を敏感に察して口元を吊り上げている。

「…いえ、そんなことは…」
「あはは、ざーんねん!昨日は適当なところでさっさと逃げたからそういう意味では無事だよ」
「聞いてませんから勝手に答えないで下さい」

無駄と悟った帝人は今度は濁さずにきっぱり答えた。だがやはり相手が悪すぎた。

「帝人くんってあんまり顔に出ないタイプだし、そういうこと考えてても誰にも分からなかったりしそうだよね」
「…人の話を聞いてください」
「でさ、やっぱり帝人くんって―」

しつこく絡む自称永遠の21歳に、ものの5分もしないうちに帝人は音を上げる。
「臨也さん、僕そろそろ」
なんとかこの場から逃げ出そうと試みかけた矢先、
「あ、そうだ。どこかでシズちゃん見かけた?」
狙ったかのように臨也の話題が急に方向を変えた。
「あなたも大概人の話聞かないですよね…」
良い様に遊ばれている気がしないでもなく多少ムッとしたが、今はこの話題転換はありがたかったので帝人は素直に乗る。

「静雄さんなら今日はまだ見てないですよ」
「そっか。じゃ、今日は見つからないうちに退散するかな」
「そのほうが僕としても嬉しいです」
「それどういう意味かな」

問われて思わず頬が引き攣る。
二重の意味で、帝人としてはさっさと臨也に池袋…というか自分の前…から去ってほしかった。
ひとつはいい加減絡まれるのが鬱陶しかったから。
もうひとつは、

「今静雄さんに見つかったら、僕殺されるかなとか思うんで」

心の底からこちらは遠慮したいというのが帝人の本音だ。
「…まっさか。いくらシズちゃんでもそこまで」
そう臨也は笑うが、帝人は見たことがあるので笑えない。

臨也の天敵であり恋人であるかの池袋最強はおそろしく嫉妬深い。臨也が楽しげに話す相手全てにそれだけで殺せそうな視線を送っている静雄の姿は、何故か遭遇率の高い帝人にとってはよく目にするものだった。
そろそろ話し始めて10分。早く離れないと刻々と自分の命の刻限が迫っている気がしてならない。

そう思っているうちに…

「いィざァやァァ」
「「あ」」

背後から聞こえる怒りと苛立ちのこもった声と駆けてくる足音。
怖くて振り向けない帝人の身体をくるりと反転させて、臨也は自分はその背後に隠れる。
全身は収まらなくても隠れる意思表示としてはそれで十分だった。静雄の青筋がさらに増える。

「なぁにしてんだァ手前ぇ?」
「うんほら落ち着こうよ?ね?」
「ちょっ、臨也さん僕を盾にしないで下さい!」
「まぁまぁ。君と俺の仲でしょ?」

どんな仲だというんだ!!と叫びたい帝人だったが、その瞬間に一気に目の前の相手の怒気が膨れ上がったため叫ぶことはできなかった。
そんなことをしたら確実に爆発寸前の静雄を刺激してしまう。

「いーざーやーくーん?ちょぉっと話があるんだがなぁ」
「ひっ」

帝人は思わず息を呑んだ。
凄まれたのは背後の臨也のはずだったが、ビシバシと当たる怒気は臨也だけでなく明らかに自分にも向けられている。
あー、これはちょっとやばいなぁ。そんな元凶ののんきな声がすぐ後ろでするが、文句を言う余裕すらない。

「じゃ、俺は帰るね。帝人くんまたね!あとシズちゃんは死ね!」

ぱっと離れる気配がして振り返れば、臨也の姿はすでにそれなりに離れたところにあった。ひらひら手を振って挨拶されて、思わず頬が引き攣る。

「てめぇっ待ちやがれ!!」
吼えた静雄が走り出そうとして、何を思ったか止まる。

「あ、そうだった。おい、竜ヶ峰」
「は、はい!?」
「あいつは俺のだから手ぇ出したらただじゃおかねぇぞ」
「出しませんっ!!」
「ならいい。じゃあな」

鋭い視線で睨まれて言われた言葉に、帝人は考える間もなく半ば反射と本能で否定した。
それを確認し静雄は満足げに頷き、次いで「あのノミ蟲今日こそ逃がさねぇからな」と歯軋りと唸りを混ぜて吐き出して、臨也の消えた方角に有り得ない勢いで走り出す。
遠ざかる怒鳴り声を聞きながらしばらく呆然としていた帝人は、

「あの人たちって…ホント、迷惑だ」

と、少し放心の余韻を残した声で呟いた。
そして、僅かとはいえ巻き込まれ精神的な被害を被った不運にひとつ大きなため息をついてから当初の目的地を目指してを歩き出した。












※ある日のダラーズボスの話。不運です。
池袋最強ともめるのは絶対避けたいのに何故か遭遇する悲劇。あ、かせは帝臨も臨帝も好物です。さらには帝静もいける。でも本命は帝正。っていうか帝人さまは総攻めでいいじゃないかと思う今日この頃。


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