「……なんかプロポーズみたいなんだけど」
※お題『組込課題・台詞』より。付き合ってない設定。無自覚シズ→イザで酒による無意識の暴走。酔っ払いって最悪だよね。とくに後で何したか覚えてないやつ。








「うわ、酒くさ…」
自分を抱き締める男から漂う臭気に、臨也は辟易とした表情で呻った。
玄関先でいきなり抱き締められたのはほんの数秒前のこと。
珍しくドアを壊さずにインターホンを鳴らした相手を出迎えた矢先のことだった。

「シズちゃん酔っ払ってるでしょ」
「…よってねぇよ」
「うん。酔っ払いはみんなそう言うからね。とりあえず放して痛い」
「いざや〜」
「はいはい分かったから頭押し付けるの止めてマジ痛い」
「手前うぜぇんだよころす」
「…はは…死ねよ酔っ払い」

なんだかよく分からないがせめて中に入って扉を閉めさせてほしい。今の状況で誰か通ったらさすがに居た堪れない。
俺はとりあえずしばらく事務所を引っ越したくはない。そう考えて臨也はため息をつきつつポケットに忍ばせていたナイフを取り出した。
そのまま静雄の背中にぐりぐりと刃を突き立てる。当然刺さらないが、それは別にいい。

「なーにすんだよ、いざやくーん?」
「うん。とりあえず放せ」
睨む相手ににっこり笑っていってやると、んー、と妙に緩慢な仕草で首を傾げた。

―ひょっとして泥酔かよおい。

天敵の前だというのに無防備すぎる静雄に臨也は頭が痛くなった。
いつも臨也の予想を覆し思い通りにならないのが平和島静雄という男だが、これは正直対処に困る。
まだいつものようにドアをぶち破り手近なものを投げられるほうがマシだった。

「シズちゃん、とりあえず中に入ろうよ。おいしいお酒もあるからさ」
「おう」

素直に頷く静雄に内心安堵して、臨也は緩くなった腕の拘束からするりと逃れる。
そして、大人しく静雄が中に入っていくのを確認して鍵を閉めて、さてどうするかと考えた。
あそこまで酔ってる今なら酒に薬物を混ぜたところで分からないだろうとも思うが、気勢は既に殺がれている。
「…さっさとつぶして運び屋にでも引き取ってもらえばいいか」
せっかく高い金を出して手に入れた高級品を味も分からないだろう酔っ払いに飲ませることは業腹だったが、仕方ないと諦めることにして臨也は静雄の後を追って部屋に戻った。
後に静雄がとんでもないことを口にしたことで状況は一変するのだが、当然この時の臨也には知る由もないことだった。








そうして、しばらくふたりで…臨也は自棄酒に近かったが…飲んだ頃。
黙々と飲んでいた静雄が唐突に口を開いた。

「いざや」
「何かなシズちゃん」
「おれといっしょにくらそう」
「………」

………。
…………。
……………。
………………。

「…………シズちゃん、今のなんかプロポーズみたいなんだけど…?」

幻聴か聞き間違いであって欲しいという臨也の期待は、だが直ぐに裏切られる。

「そのつもりだけど?」
「うんとりあえず落ち着こうね。今君の目の前にいるのは君の大嫌いな折原臨也君です。OK?」
「わかってる」
「…分かってるんだ。いや、分かってないか酔っ払いだし」
「わかってる」
「いや分かってないから。シズちゃん、俺は君が大嫌いでいつも殺したいって思ってる相手だよ?もし本当に分かっているんだとしても、何があったか知らないけどヤケになるのは止めたほうがいいよ。自分で言うのもなんだけど俺の性格って最悪だしそもそも俺もシズちゃんのこと大嫌いだし、いつ寝首をかかれるか分かんないよ?」

何が悲しくて自分が静雄を諭さなければならないのか。臨也は泣きたい気持ちになりながら懇々と説く。
が。

「しってる」
その一言と共に手首をとられ引っ張られて、無理やりホールドされてしまえばもうどうしようもなかった。
なんとか顔が近づいてくるのを止められたのだけでも奇跡に近い。
不満そうに眉間に皺を作る静雄の口を手で塞いでブロックしたまま、臨也は大きなため息をついた。

「シズちゃんキスはマジでやばい。正気に返った後で後悔して物壊しまくった挙句俺の息の根止めようとするのが目に見えてるから止めて」
「しねぇよ」
手を引き剥がして寄せてくる顔をもう一方の手を使って止めようとしたが力の差で微妙に押し負けている状況に臨也は本気で焦る。
「いや酔っ払いの戯言は信じませんっ。っていうか俺がしたくないの!わかってよ!!」
「おれはしたい」
「あああああぁ話が通じてるのに通じてない!誰か助けて!この際ホント誰でもいいから!!」
「いーざーやーくーん?手前、俺以外にもだれかいるのかよぉ?」
「そういう意味じゃないよ!そもそも君と俺って天敵同士って以外何の関係もないよね!?」
「いざやぁ、俺は手前のことが、」
「言うな!言ったら二度と口聞かないよ!?」

パニックの挙句の絶交宣言。俺は小学生かと頭を抱える臨也に、だが、静雄はショックを受けたかのように大人しくなった。
しゅんとしょげる大型犬のような様子は哀れだったが、危機を脱したばかりの臨也にはどうでもいいことだった。
シズちゃんとキスとか冗談じゃないし。

「いざや、いざや」
呼びかけてくる静雄の声は構って欲しい子供のそれと同じだ。
構って構ってと全身で訴える静雄。その有り得なさに臨也は心底この現状から目を逸らしたいと思う。
「…やっぱり俺はいつものシズちゃんがいいよ」
こんな気持ち悪い事態はさすがの臨也でもとてもではないが楽しめそうになかった。
抱き締められたまま、耳元で自分の名前を呼び続ける相手に、ついに臨也は現実逃避を決め込んで目を閉じる。
ぎゅうぎゅう抱き締めてくる腕と僅かに軋む骨の音と、耳元の囁くような甘い声と。
これが臨也に対する嫌がらせだとしたら確かにものすごく有効だと言わざるを得なかったが、静雄の化け物っぷりに似合わぬ比較的健全な精神がそんなことを考え付くとは思えない。
つまりこれは酔っ払いの戯言に過ぎず。

「…ああ、酔っ払いマジうぜぇ」

うんざりしながらそんな言葉を呟いたところで、酔っ払いに通じるはずもないのであった。












※お約束ですが正気に返ったあと静雄は何にも覚えてないと思います。


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