「じゃあ、プリン二個で手を打とう」
※お題『組込課題・台詞』より。『猛獣の飼い方10の基本』の幼馴染設定。俺の同居人はプリンで釣れる人だよ。可愛いよねホント。








「臨也、いい加減起きろ」

ああ煩いな。別にいいだろ休日くらいゆっくり寝かせてよ。
誰かさんと違って俺は忙しい時は死ぬほど忙しいんだから休める時は休みたいの。
そう言ってやろうと思ったが、まるで全身が睡眠を欲して飢えているような状態であまりの眠さに口さえ動かすのが困難だった。

「いぃーざぁーやぁーくぅーん?」

ああ鬱陶しい。人の名前を無駄に伸ばすな。
俺が寝てるのがそんなに気に入らないならアパートの方にでも行けよ。そうすれば顔を見ることもないから怒りようもないだろ。
怒鳴ってやりたいのに身体は全然動かない。完全に俺の制御を離れた肉体はもはや俺のものでないも同然で。
…今何か投げられたりしたら確実に死ぬと思うね。
埒もあかないことを考えている頭も、実はさっきからゆっくり活動を落とし始めているらしい。

「おい臨也。おい」

うんうん。聞いてる。聞いてるだけだけど。

「マジで寝てやがるのかよ」

寝てるよ。っていうか寝てちゃ悪いのかよ。

「ちっ、仕方ねぇな」

うん何が仕方ないのかな。眠いし目が開かないし確かめようもないんだけど何ごそごししてるのさ。
とろとろと眠りの淵を彷徨いながらシズちゃんの呼び声を聞いていると、パサリと音を立てて何かが身体の上に乗せられる。
それからシズちゃんが傍にしゃがんだ気配がして、ふわりと頭を撫でられた。
何なんだろう一体。怒ってたんじゃないの?
そう訊きたかったけど、やっぱり口は開かないし目も開けられそうにない。
何度も優しく撫でられてその心地よさにうとうとしてきて…

どうやら俺はその後昏々と眠り続けたらしい。








「で?」
「はい。シズちゃんとの約束をすっぽかした挙句、相手もせずに寝こけてたのは俺です。俺が悪かったです」
「だから?」
「ええと…埋め合わせはちゃんとしますので許してください?」
「何で疑問系なんだよ」
「いやなんとなく?」
「手前ぇ、あんまりふざけるようだとなぁ」
「…俺が悪かったです」

結構本気で腹を立てているらしいシズちゃんを前に、正座した俺はひたすら縮こまるしかない。
暴れこそしないけど険しい表情で睨まれると自分が悪いだけに言い訳もできない。いやできるけどしたら協定を破ってでも殴られそうだ。
…なんであんなに眠かったんだろうなぁホント。

「あ」
「なんだ?」
「あー…うん。いや、何でもないよ」

そう言えばちょっと一眠りしようと思った時に、自分の出すのが面倒でキッチンにあったシズちゃんのカップ使ったっけ。
あれって昨日仕事が終わってないのにちょっかいかけてくるシズちゃんを大人しくさせようと思って眠剤仕込んだんだよね。量が足りなくて無駄だったけど。
眠くて覚えていないが、底の方に溶けたそれが残っていたのかもしれない。

「ごめんねシズちゃん。今度から気をつけるよ」
「手前の言葉は信用できない」
「そりゃそうだろうけど、さ」

シズちゃん相手に素直に謝るなんて屈辱的なことしてんだからホント許してよ。これは口にしたら危険だから言わないけどさ。
さっきより機嫌がマシになったらしいシズちゃんは、俺が一応本気で反省していることを感じたのか少し視線を彷徨わせてから。


「…プリン二個で手を打ってやる」


そう妥協案を提示してくれた。
それくらいで機嫌が回復するならお安い御用だよ。
…だからとりあえず何でそこまで眠かったのかは突っ込まないでね、シズちゃん。












※プリンは正義です!


[title:リライト]