※420の日的シズイザ。小話。















「シズちゃ〜ん、420の日おめでと〜」
ドアを開けた途端そんなことを口にした臨也に、静雄は半眼になって眉間に皺を寄せた。
「つーか、お前それ毎年言ってっけど意味分かんねぇんだよ」
「え、4月20日で420、し・ず・おで、だからしずおの日?」
「…そういうことじゃねぇ」
大体その意味の分からねぇ語呂合わせはなんなんだ。俺にとって4月20日はただの4月20日でしかねぇぞ。ついでに、そもそも、普段あれだけ『静雄』と呼びたがらないくせにこんな時にばかり連呼するってのはどういうことなんだ。
そう思いながら息を吐く。
「手前そのしずおの日とやら、日の部分付けねぇで言ってみろよ」
「………」
嫌味半分に言ってやれば途端に黙り込むのだから、静雄としては面白くないことこの上ない。
「臨也くんよぉ、用事はそれだけか?ならもう帰れよ。俺はこれから昼寝すんだよ」
「…せっかくの休日にやることが昼寝とか、君友達いないんじゃないの…って、ああいなかったね。化け物のシズちゃんに付き合ってくれるやつなんてそうそういるわけないもんねぇ?」
仕返しとばかりの言葉による攻撃。
静雄も負けじと手前こそ――と言い返してやろうとしたが、それより先に臨也が行動に出た。
するりと静雄の脇を抜け、許可していないのに勝手に上がり込んだ男は、そのまま鍵を閉め靴を脱いで――それから静雄の腕を掴む。
「臨也?」
虚を突かれて苛立ちは霧散してしまい、首を傾げて問えば、ちらりと遣される視線。
「しょうがないから、俺がシズちゃんに付き合ってあげる」
あれほど滑らかだった口調から一転、小さくまるで呟くような声がそう告げて、腕を引かれた。
急な行動に一瞬呆けた静雄だったが、こちらを見もせずに歩を進める臨也の横顔を眺めれば耳まで赤いのが見てとれて。
ああ、そういうことかよ。
そう納得して、次いでため息が漏れる。
引っ張られるまま歩き出せばすぐにローテーブル脇の座布団へと行き着いて、肩を押されて強制的に座らされた静雄は眉根を寄せて臨也を見た。
視線が合う。と同時にしゃがみこんだ相手は、ずいぶんと自然な動作でくるりと向きを変えて、それから静雄の足の間にすっぽりと収まった。
まさに止める間もない流れるような動作だった。
「…臨也、手前ぇな」
「なぁにシズちゃん?」
自分を座椅子代わりに軽く寄りかかる彼は、僅かに首を捻って酷く上機嫌に笑う。
それに一瞬見惚れそうになるのを堪えて、静雄は敢えて不機嫌の表情を作って唸るような声で威嚇した。
「どきやがれ、ノミ蟲」
「やだ」
「おい」
「せっかくしずおの日だし、お祝いに俺を膝抱っこさせてあげるよ、シズちゃん」
「人の話を聞けよ、いらねぇよ…っていうか、膝抱っこじゃねぇだろこれ」
文句を言ってみるが聞く気などないらしい。
そのくせ、
「いいじゃん、祝ってあげてるんだからさぁ」
勝手なことを言ってくる男の声はその傍若無人な態度とは裏腹に柔らかく甘くて。
「うぜぇ離れろあっち行け」
「やーだね」
ぽすっと静雄の肩に後頭部を凭れさせて、猫のように懐く男はいつも以上に無防備だ。
その仕草が先程抱いた考えを確信に変えて、静雄は諦めを混ぜた息を深く深く吐き出す。

――つまり、手前はただそのしずおの日とやらにかこつけて構って欲しいだけじゃねぇか。

そう思って、内心呆れ返る。
そんなもの関係なく甘えたければ甘えればいいものを、素直でない男にはそれができないのだろう。
力を抜いて寄りかかっている臨也に改めて視線をやれば、妙に幸せそうに頬を綻ばせているのが目に映る。
それに、何だがそれ以上文句を言う気も起きなくなってしまって。
まあいいか、甘えたいなら甘やかしてやろう。そう思ってしまって。
静雄は仕方ねぇなぁとぼやいて、柔らかな髪に指を通し、そっと素直でない恋人の頬に唇を寄せた。












※甘えた臨也でしずおの日。