第一印象は(相手にとっては)最悪です
※現代臨也×来神臨也。ツッコミはご遠慮下さい(笑)















目の前の警戒心も顕な子供に、臨也はすっと目を細めた。
黒髪に、赤みのある不思議な色の瞳。鏡で毎日のように出会う姿を少し小さく、幼くしたかのような外見。
それらを確認して、ああ、そういえばそうだった、と思う。
どこからどう見ても、目の前の子供は、間違いなく高校の頃の自分で。
確か17の時だったかな?と記憶を掘り起こして、苦笑する。
あの時の自分も、気付いたら見知らぬ部屋にいて目の前にいる自分とよく似た男にひどく警戒したのだった。

「まあ、説明されても納得できないと思うけどさ」

でももう少し冷静になって欲しいね、と溜息をつきつつ言ってみる。
当然というか、臨也の言葉をまったく信用していない高校生の彼はまるで警戒心剥き出しの野良猫のような雰囲気を放ったままだ。
「信用できるはずがないだろ」
一応状況についての説明はしたのだ。そうまできっぱり言われては、いっそ今すぐ外に放り出してやってもいい気になる。なるのだが…実際はそうもいかない事情が臨也にはあった。それに。

――このまま手を出さずに放っておくなんて面白くないよね?

今なら分かる。あの時――高校時代の自分が未来に行ってしまった時、何故あれほど未来の自分が愉しげだったのか。
「これは弄りたくなるよねぇ?」
まだまだ人生経験が浅すぎて未熟で自分の感情を隠しきれない幼さが。
その行動のの端々に見える滑稽なまでの虚勢が。
たまらなく、臨也の好奇心を刺激していた。
まったくの別人なわけじゃないけど、だからこそ行動を予測して先回りして弄る楽しみがありそうだよなぁ。
などと非常に性質の悪い感想を抱いて、クスリと笑う。

「ねぇ、ところでさ」
「…なに、かな」

一応返事は返してくれる辺り、自分の置かれた状況がかなり特殊であることだけは分かっているのだろう。
だけどさ、俺が訊こうと思ってるのは君が思ってるようなことじゃないんだよ。

「シズちゃんとキスした?」
「っ!?」
「あはは、してるよね?だって俺はしてたもん」
「………」

真っ赤になった子供は、うろうろと視線を泳がせている。
ああもう、何というか、本当に正直だ。
笑いを堪えきれずに吹き出した臨也は、そのまま沸いた悪戯心に任せて子供の自分に手を伸ばした。

「ねぇ、キスしよっか?」
「…え?」

返事は待たない。
そのまま顔を近づけて、最初は触れるだけのキス。
怯んだ隙にもう一度口付けて、そのままわずかに開いたままの唇を割って舌を侵入させる。

「んっ!?んんーッ!!」

ようやく我に返ったのか暴れる彼の両手首を捕まえて抵抗を封じて。
たっぷり時間を掛けて力が抜け切るまで。
力が抜け切って、指先が縋るように服を掴んでも。
臨也はキスを止めてやらなかった。
「ん…っ……ぁっ」
漏れ聞こえる喘ぎが存外悪くなくて、止めどころが分からなくなってしまったのだ。
しばらくそのまま息を継ぎつつ口づけを続けていると。
「っ…ふ、ぅぅ……ッ」
息が苦しいのだろう。またないに等しい抵抗を始めた“臨也”に、仕方ないかと開放する。
今のを勘定に入れなければ、まだ静雄以外とキスしたことなどない子供なのだ。
…しかもシズちゃんとしたのはほぼ事故同然のだったしねぇ。と回顧して、くっと笑う。
そう言えばあの時の静雄の顔は見物だった。
そんなことを思いながら、臨也は過去の自分を見下ろした。
逃げることもできず荒い息を吐き出している子供は、まぎれもなく過去の自分だ。
そして、この未来での経験がなければ静雄との関係はまったく違うものになってしまうのだろう。
それが分かっているから、臨也は今の自分のためにもここで彼を逃がすわけにはいかないのだ。
まあ、愉しめそうだしむしろ役得かな?
これからしばらく続くだろう過去の自分との日々は、臨也にとっては楽しいものになると確信している。
とりあえず、まずはもう少し遊んでみようと過去の自分にとっては激しく迷惑なことを勝手に決定して。
臨也はくたりと力が抜けた身体の、その細い背をそろりと撫でてみた。

「…ッ」

途端、ビクリと怯えるように震えた身体が、なんだか妙に可愛く思えてついつい笑う。
いや、俺こんなに初心だったっけ?
そう思ってみたところで、もう遠い昔のことだ。
酷く混乱して、くやしくて。でも決して嫌ではなかったことだけは覚えている。
まあ、嫌じゃなければいいよね?
そんな身勝手なことを考えて、
「気持ちよかったでしょ?」
そう問えば、混乱と羞恥と快楽がない交ぜになった視線が臨也を睨む。
そんな潤んだ目じゃ逆効果なのにねぇ。でも、なるほど。静雄が何故こういう時に睨むとやたらしつこくなるのかよく分かった。
いや新しい発見だ、と。心の底から楽しく思いながら臨也はついでとばかりに涙の滲む眦を舐める。
「っ」
先ほど以上に大きく震えた身体ににやりと笑って。
臨也は、とりあえずもう少しだけからかってやろうと意地の悪いことを考えるのだった。












※臨也さん悪乗りするの巻(笑)





↓もういっこ没版。
※現代臨也×来神臨也(?)別ver.












なんで、どうして、こういう状況になったんだろうか。
目の前の男がくっと喉を震わせて笑うのにビクリと過剰反応してしまった自分に、臨也は舌打ちする。
「そこまで警戒しなくても、別にとって食いやしないよ?」
そんな言葉信用できるか!
心の中でそう叫んで。臨也は、自分とよく似た容姿の男をキッと相手を睨みつけた。
例えるならば数年後の自分、と言ったところだろうか。目の前の男――全身黒づくめの自称”折原臨也”は、自分よりも成長し大人びてはいるものの確かに自分そのものであった。
状況がわからない。なんで学校にいたはずの自分がここにいるのかも、目の前の男が彼自身の言うように8年後の自分であるのかも。
「…アンタの言葉を信じるとして」
「うん?」
「それでも俺がここにいる理由がわからない」
我ながら警戒心と猜疑心に満ちた声音だと思いつつ、絞り出すように言えば。
そんなことかとばかりに相手が笑う。自分のそれを対面で見るのは初めてだが、正直、すさまじく不愉快な嫌な笑みだった。
「そんなの俺だって知らないさ。ついでに言えば、俺は高校時代に未来に行った記憶もないしね?」
「……」
「でも、どういう理屈でそうなってるのかなんて今はどうでもいいでしょ?」
そう言って。ひょいと少しだけ屈んでくるものだから必然顔が近づく。
「な、に」
「君は俺なんだろうけど、何て言うか…まるで別人みたいだね」
「………」
「まあ、経験の差なのかなぁ」
「ねぇ、シズちゃんとキスした?」
「っ!!!」
「あはは、すっごい顔」
明らかに楽しんでいる。
これはおもしろい玩具を見つけた時の顔だと自分のことだけに分かる。
「…アンタは、したことあるわけ…?」
上手く切り替えせず、結局問うだけに留めたのは、直感的に目の前の自分に口では勝てないと分かってしまったからだ。
「あるよ」
さらりと言われて瞠目する。
「だって俺シズちゃんとコイビトだしねぇ」
「…は?」
「いや、だから恋人なのシズちゃんと」
「…うそだろ?」
「ホントだって、疑うの?」
いやだってありえないだろ?どれだけ嫌われてると思ってるんだよ。そう思う。
けどニヤニヤ笑いを消さない相手の言葉の真偽は、今の臨也には判断しようがなくて。
ぐっと押し黙るしかなかった。

「ねぇ、キスしよっか?」
「は――?」
「うんそうしよう。シズちゃん落とすのに必須スキルだし」
「は……え、え?」
「大丈夫最初は優しくしてあげるから」

――なにが大丈夫なんだっ!?
心の中で悲鳴を上げた臨也に、たぶんその心情など察しているのだろうたちの悪い男は笑みを深くした。
「いや興味深いね。まさかこんな事態に遭遇するとは思ってなかったけどさ」
口の端をつり上げたままそんなことを言う男の目には純粋な好奇心とは到底言えない悪意的な色が見える。

「とりあえず、時間の許す限り、過去の自分がどんなだったのかたっぷり確認させてもらおうか」

にっこり笑った悪魔に、臨也は心底恐怖し青ざめた。
自分も相当たちが悪いと思っていたけどどこをどう捻ったらあんなどうしようもない最低最悪の悪魔になるんだ!とすべてが終わったに叫ぶ彼は、しかし数年後には自分もそうなるのだということはすっかり頭から抜け落ちていたのだった。












※とりあえず散々遊ばれた来神臨也さん(笑)…もちろん最後までは致してませんよ?「初めてはシズちゃんにとっておいてあげなきゃね?」とか言われて(笑)