先に惚れた方が負け、なんてことはない
※シズ⇔イザ。紫音さんへの捧げ物!















「シズちゃんちょっと休ませてー」
そんなことを言って断りもなく部屋に上がってきた相手に。
静雄はまたかと渋面を作って頷いた。
「…また寝不足か?」
「んー…そうなんだけどさぁ、この後まだこっちで用事あるから帰れなくて」
「もう少し規則正しい生活しやがれ」
「いや無理」
静雄の言葉に答えながらふらふらと歩く彼は先日持ち込んだクッションのところまで行って、そこで力尽きたように座り込む。
クッションを抱きかかえてずるずると横になるのを確認して、やれやれと首を振って。
静雄は仕方ねぇやつだと心の中で呟いた。


静雄と臨也は別に和解したわけではない。
今だって池袋の街中で臨也を見つければ追いかけるし、結構本気で喧嘩という名の殺し合いをしていると思う。
ただ、そこにこの奇妙な関係が加わっただけ。ただそれだけだった。
一度だけ、追跡の末に捕まえた臨也が寝不足で今にも倒れそうだったことがあって、ついつい仏心(?)で自分の家で休ませてやったというただそれだけ。
それだけのことだったはずなのに、それ以来臨也は何故か寝不足の時にここに寄るようになった。


「シズちゃんは、今日は…休み、だよね?」
問いかけてくる声はかなり途切れ途切れで、臨也の眠さを示している。
「ああ、休みだな」
「どっか、でかける…?」
「いや出掛ける予定はねぇ」
「…そ、っか」
そう言って、眠さに抗えず瞼を閉じた臨也に、静雄はくすりと笑った。
さっさと寝てしまえばいいものをと思いつつも付き合うのは、こんな時でもなければ臨也とまともな会話など望めないからだ。

(…こいつは俺が手前を好きだなんて知りもしねぇんだろうな)

そんな思いが頭を過ぎる。
それこそ学生時代から惚れていて、でも素直になれないのだなどと、自分に向けられる好意に鈍いこの情報屋は知らないだろう。
「寝不足ならとっとと寝ちまえよ」
「う…ん…」
こくんと頷いた臨也の呼吸はすぐに規則正しい寝息に変わる。
それを確認して、静雄は臨也を起こさないようにそっと近づいた。
覗き込んだ顔はいつもの無駄に整ったものだが、目を閉じているせいかやけに幼く見える。
無防備なその顔をしばし眺めて、それから手を伸ばして髪に触れて。
静雄は梳いたそれの触り心地の良さに目を細めた。

(なぁそんなに無防備でいいのかよ?)

このまま閉じ込めてしまおうかなんて、そんなことを自分が思っているなどこの男はまったく想像もしていないに違いない。そんなことを考えて、苦笑する。
静雄は自分の独占欲が人より強いことを自覚していた。
臨也のその瞳がいつも静雄以外の誰かに向けられていることを不満に思う程度に。
その感情すべて、余すことなく自分だけに向けていればいいものをと思う程度に。
静雄の臨也に対する想いは強いものだった。
だからこそ、

(馬鹿だよなぁ、臨也くんよぉ?)

そう思う。
臨也が学生時代もう少し静雄と関わらなかったら。あるいは、卒業してからもっと距離を置いていたら。
この想いは鎮火したかもしれなかったのに。

(まあもう遅いけどな)

もう今更忘れる気はない。これは俺のだと強く強く感じるから、静雄はその心を偽る気はなかった。
しかも、だ。
「ん………しずちゃ…すき」

(おー、俺も好きだぜ)

臨也の本心は一番最初にこの部屋で休ませた時にすでに知ってしまっているのだから。
まさか寝言でばれてしまっているなどとは臨也も思いもしないだろう。
そう考えると妙におかしくて笑えてくる。
まあもうしばらくはこのまま、臨也の好きなようにさせておく予定だ。
逃げ場などないようにゆっくり。確実に。
気づいた時にはもう手遅れなくらいまでに依存させてから手に入れるのが、現在の静雄の目標なのだ。
その時が楽しみだよなぁ?と臨也がするような性質の悪い笑みを浮かべた静雄は、そっと身を屈めて想い人の額にキスを落とす。

そして、聞こえていないことを承知の上で囁くのだ。
まるで宣戦布告でもするみたいに。

「俺を惚れさせたんだから、覚悟しとけよ?」












※執着の強さは人一倍。

遅くなってしまった上にぐだぐだですみませんでした…っ!
突発企画にお付き合いくださりありがとうございました!