sweet days
※クロネコ設定。うおのめさんへの捧げ物!














「シズちゃん、あーんして」
「あ?」

突然の言葉に開けた口に何か甘いものが放り込まれた。
噛んでみれば、広がる甘み。

「クッキーか?」
「うん。作ったから」
「お前菓子も作れるのか」

決して意外ではないが。
甘いものがさほど好きでない臨也が自分からお菓子を作るというのが想像できなくて、静雄は僅かに眉根を寄せる。
そんな彼にまったく気付かずしゅるんと長い尻尾を動かして、黒猫は笑う。
「年の功って奴だよ。なにしろ無駄に長生きだけはしてるからねぇ」
宮廷料理だって作れちゃうよ?と言う臨也は、自分の口にもクッキーを放り込む。

「うん。悪くないね」

満足げに頷いて、静雄にもさらに一個食べさせて。
そこで静雄の疑問の視線に気付いた彼は小首を傾げた。
『感情の波』とやらを食物にしているわりに、この黒猫はある種の感情には酷く鈍い。

「なに?」
「いや…これ、いつ作ったんだ?」
部屋の中に甘い匂いはない。
つまりこのクッキーはここで作られたものではない。
「ん?ああ、新羅のとこで作った」
「新羅の…?」
「デュラハンが闇医者に手作りのお菓子をあげたいって言うから付き合ったのさ」
ああなるほど、と納得する。

「これ、他の奴にやってないだろうな」
「?…帰ってくる途中でドタチンと帝人くんに会ったからあげたけど?」
「………」

静雄の問いに、こてんと首を倒して答えたこの猫は、分かっていない。
静雄が“たったそれだけ”のことでどれだけ嫉妬するか、まったく分かっていないのだ。

「シズちゃん?」
「他の奴に、手前の手作り食わせてんじゃねぇよ」
「……」

ぱちぱちと目を瞬かせて。
それから、ようやく理解したらしい臨也が苦笑する。
「シズちゃんって、時々すごく嫉妬深いよねぇ」
くすくす笑いながらクッキーを口にする彼は、それでもまだ静雄の嫉妬深さを把握し切れていない様子で。
感情を読めるくせに、と思わずにはいられない。
好きで好きで仕方なくて、本当は誰にも見せたくなんかないというのに。
知らず眉間に皺を寄せた静雄が臨也を軽く睨むと、相手の苦笑が深まった。

「…知ってるよ、シズちゃんが独占欲の塊だってことくらい」

そんな言葉をともに、ちゅっと小さく。
触れるだけの口付けが、静雄の唇に落とされる。

「俺が好きなのはシズちゃんだけだよ」

甘く、囁くように告げる言葉。
沸き上がった感情が何なのか感じる余裕すらなく、静雄は臨也の首に手を回して引き寄せた。

「!…んんっ」

噛みつくような口づけに腕に囚われた相手が目を見開く。
抵抗こそないが静雄の突然の行動にビクリと身体を揺らした臨也のその髪を、宥めるように撫でてやれば硬直した身体から力が抜けた。
さらに髪から倒された猫耳へ指先を滑らせて、ふるりと身を震わせる彼の唇を優しく食む。
とろりと潤んだ濡れた瞳が綺麗で、もっと、と望まずにいられない。

「…ちょ…っと、シズちゃん何してんの」

何ってキスだろ?と思ったが口には出さず。
静雄はもう一度柔らかい唇を啄ばんで、そのまま口付けを深めようとするが。

「……おい」

臨也は小さな黒猫に戻ってしまっていた。
静雄の抗議の声に鼻を鳴らして、ひょいと肩から飛び降りた臨也がゆらりと尻尾を揺らす。

「ダメだよ。これからご飯作るんだから、夜までオアズケ」

チェシャ猫のように口の端を吊り上げて、黒猫が笑う。
すっかりその気だった静雄はそんな臨也にチッと舌打ちして、横目で時計を睨みつけたのだった。












※クロネコ的日常風景。

あんまり甘くなかったような気も…
リクエストありがとうございました…!