気付かなければよかったこと
※シズ←イザ。朱織さんへの捧げ物!














「え?俺シズちゃんと付き合ってないよ」
ちょっとした会話の中で出てきた単語を否定して、臨也は首を振りながら相手――矢霧波江を見た。
対する相手は、何故か予想外のことを聞いたという顔をしている。
「あら…そうなの?」
「うん。って言うか、どう考えても俺とシズちゃんとかありえないでしょ?」
何でそう思うかなぁと不思議に思いながら、臨也は否定の言葉を重ねておく。
あれと付き合っているとか思われていた事実にちょっとどころでなく複雑な気分になりながらも認識の修正を求めたのだが、そこで波江から爆弾発言が降ってきた。

「でも貴方、平和島静雄のこと好きでしょう?」

疑問系なのに断定の響きを持った問いかけ。
一瞬何を言われたのか分からなくて臨也はきょとんと首を傾げて、波江を見つめた。
彼女が二度同じ言葉を繰り返すとは思わないから頭の中で拾った音を再生して、改めて言葉として認識して――
「……………俺が、シズちゃんを好き?」
たっぷり時間をかけてから、臨也はそう呟いた。
その頃にはもう爆弾発言を落としてくれた相手は仕事に戻ってしまっていたけれど。
臨也はよく分からない内心のチリチリとした焦燥に眉根を寄せる。
自分が?静雄を?ありえないだろう?
そう思うのに、生まれてしまった何かは彼の中で急速に肥大し始めていた。

「……俺がシズちゃんを好き?」

もう一度自問して、目を瞑る。
記憶の底から今までの自分の言動を掘り起こして、一つ一つ分析して。
「…嘘だろ」
目を開けた臨也は、頭を抱えたい気分になっていた。
否定したくても否定しきれないかもしれない。
今現在の静雄と臨也の関係は、あくまで敵だ。しかしその一方でどこでどう間違ったのか身体を繋ぐ関係にもある。
どこでどう間違ったのか…の部分。この部分が、無自覚の感情が混在した結果のものである可能性は否定できなかった。
何より、このよくどこから来るのかも分からない焦燥がもたらす苦しさ。これが、自分の真実の気持ちである可能性が高くて。
静雄の姿を思い浮かべてずきりと痛んだ胸に、臨也は低く唸る。
「…さいあく」
自覚など、しなければ良かった。
波江の言葉をさらりと聞き流していればよかった。
考えなければ、自覚せずに済んで。自覚しなければ、こんな思いしなくてもよかったのに。
「…自業自得、かぁ」
いまさら好きなんていえない。
言ったところで拒絶されるのは目に見えている。
…とりあえず当分の間は顔を合わさないように気をつけよう。
そう思って、鬱々とした気分のまま。
臨也は小さく溜息をついて目を閉じた。












※恋を自覚する。

大変お待たせした上にご期待に沿えずすみません…っ><
突発企画にお付き合いくださりありがとうございました!