ずるいひと
※中学生臨也と新羅。珠呂さんへの捧げ物!














生物部の部室で、新羅は時計をちらりと見遣った。
最愛の妖精はたぶんまだ家には帰っていないだろう。
だからこそ、ここで時間を潰しているのだし。

そう考えながら、新羅は今度は目の前へと視線を移した。
そこには眠そうにぼんやりと目を開いた『友人』の姿がある。

「眠そうだね」
「ん…そう、かな」

なんとはなしに口にした言葉に答える声も、どこかぼやけていつもの精彩が見られない。

「寝ていいよ?」
「んー…寝たくは、ない」

ふるふると首を振って。
『友人』――折原臨也の独特の赤を帯びた瞳が新羅を見る。
とろりと潤んだ目は今にも閉ざされそうで、くすりと笑えば不愉快そうに眉が寄せられた。
手を伸ばして、柔らかな黒髪に触れる。
その行動に、臨也は何度か瞬いて、それから溜息をついた。
嫌がるでもなく素直に受け入れる辺り、かなり眠いのだろう。
いつもだったらそれとなく逃げるのに。
そう思って、また笑う。

「…ねぇ、新羅」
「ん、なんだい?」
「君の好きなひとって、どんなひと?」

ふわふわと眠気に浸されたような声に尋ねられて。
今度は新羅が目を瞬かせる番だった。

「…聞いてどうするんだい?」

いつもなら思うさまのろけてやるところだが、今は敢て溢れんばかりの彼女への愛は口にせず、問いに問いで返す。

「べつに、どうもしないけど、気になっただけ」
「ふうん」
「しんら?」

今にも落ちそうな瞼を必死に開いて自分を見ようとする彼が、妙に幼く、可愛く見えた。
可愛いだけの生き物じゃないのにねぇ、と自分の物好きを笑って。
新羅は臨也の髪を梳いて、静かな声で言う。

「すごく、素敵なひとだよ。彼女以上に愛せる相手なんてどこにもいないね」
「…そう」

答えた途端翳った瞳。
あれほど開こうとしていた瞼をあっさり閉ざして、臨也は小さく、溜息のような息を吐き出す。
「きみが、そのひとのこと、すごくすきなのはしってる…けど」
でも…と、小さな声。
うん?と何も知らないフリで首を傾げた新羅に、だが、そこから先の言葉は聞こえなかった。

「…寝ちゃったか」

残念、と。小さな寝息を立てる『友人』に、新羅は目を細める。
出会ってまだ2年と少し。
彼とはまだ、長いような短いような、そんな時間しか一緒に過ごしていない。
最愛の妖精を想ってきた時間には、まだ遠く及ばない。
けど、言葉の続きを聞けなかったことを残念に思う程度に、新羅は彼を気に入っていた。

「臨也」

椅子から腰を浮かせて、そっと臨也の耳元で彼の名を呼んでみる。
彼は、その声に反応してもぞりと身じろいだ。

「…しんら…すき」

ぽつりと呟くように口にされる言葉は、所詮寝言。
本人の意識がある時に紡がれなければ意味を成さない。
でも。

「まあ、僕も好きだけどね」

くしゃりと臨也の髪を撫でて。
一番ではないけれど、だけど、君が僕をずっと好きでいてくれれば嬉しいなぁと思う程度に。
独占欲はあるんだけどね?と新羅は眠る臨也に笑いかけた。












※新←臨な新羅+臨也。

中学生である意味があったのかどうか;ご期待に沿えずすみません…っ><
リクエストありがとうございました!