いつもとちがういつものこと
※来神シズ(→)←イザ。カナタヒナタさんへの捧げ物!














静雄と臨也の追いかけっこ(?)はすでに日常だった。
今日も同じ。
いつも通り臨也が何か仕掛けて、はまった静雄がキレて追いかけて。
いつもと同じ繰り返し。
そのはずだった。




「は、やっと追い詰めたぜ」
「…はは、化け物の癖に息切らしてるとかさ、何人間くさいことしてんの?運動不足とか?」

追い詰められてもなお逃げ道を探して走る視線。
往生際が悪い、と思いながら、静雄は一気に距離をつめた。

「っ!」
「危ねぇだろうが」

薙ぐように走った銀色の軌跡をギリギリで避けて、静雄は眉根を寄せる。

「ったく、ちょろちょろちょろちょろ逃げ回りやがって」
「追いかけられれば逃げたくもなるさ。大体今日は俺、特に何もしてないよね?」
「…してないだぁ?そもそも手前は存在そのものが害悪だろうが?」
「ひっどいなぁ」
「煩ぇ。だいたい、手前が新羅に変なこと吹き込みやがるのが悪いんだよ」
「は?新羅?何?俺新羅に君のことなんか何も言ってないけど?」
「ああ゛?手前じゃなきゃ誰なんだよ?新羅の奴、俺に『臨也は君が好きだけどツンデレすぎて言えないだけなんだから、君が察してあげなきゃダメだよ』なんて言いやがったんだぞ?」
「……は?」

その言葉に臨也は小首を傾げて、それから数度瞬いた。
「………」
「………」
何故か、沈黙が落ちる。
先にその沈黙に耐え切れなくなって口を開いたのは静雄の方で。
「……おい?ノミ蟲?」
声をかけた途端、相手はビクリと大きく身体を揺らした。

「なっ、なにそれ!ばっかじゃないの!?そんなこと俺は言ったりしない!」
「あ?でもよぉ…手前じゃないなら、誰が新羅にあんなこと吹き込みやがったってんだ?」
「そんなの知らないよ!」
「手前以外思いつかねぇ」
「俺じゃない!俺はシズちゃんなんか嫌いだし!」
「まあ、そうだよな」
「そうそう。俺はシズちゃんなんかかっこいいとか思ってない!」
「…?何の話だ?」

変な台詞に首を傾げて問えば、臨也は一瞬自分の言葉を反芻し。
それから、一気に真っ赤になって叫んだ。

「っ!ち、違うし!俺はシズちゃんのことなんか別になんとも思ってないんだからね!」

そんな顔を真っ赤にしてムキになって言われたって説得力は皆無だ。
というか、こいつは俺のことをかっこいいと思っていたわけか。
そう思いながら静雄は臨也を見る。

――『臨也って何だかんだいって結構顔に出るからね。よく見ると分かりやすくてかわいいよ?』

脳裏に甦ったのはつい数刻前に聞いた新羅の言葉だった。
確かに、可愛いといえなくもないかもしれない。
このムカつく相手の中でこれだけはいいと思っている綺麗な顔が、あの人を小馬鹿にするような笑みを浮かべていないのも新鮮だ。
興奮してうっすらと潤んだ目元。
いつもだったら饒舌に静雄の神経を逆なでする台詞を吐く唇は、意味のない言い訳じみた言葉だけを必死で紡いでいて。
ああなるほど、と。新羅の言った言葉に毒され始めた思考で、静雄は頷いた。

「…ムキになると逆さまの言葉を言うのが特にかわいい…か」
ぎゃんぎゃんとシズちゃんなんか好きじゃないし!とかいう臨也に聞こえないように呟いて、静雄は煩く騒ぐ彼に手を伸ばす。

「っ!?」

予想もしなかったのだろう。
あっさり捕まった手首は、まあ知ってはいたが、細い。

「な、なに?」
「あー…いや、なんつーかよぉ」
「ちょ、わ、何してんだよ!?」
「うん…まぁ、確かになぁ」
「だから、何がッ」

掴んだ手首を引っ張って。
倒れこんできた身体を抱きしめてみる。
ビクリと大きく肩を揺らして、臨也は静雄を見上げて。それからぱっと顔を逸らした。

――あー…やばい。何だか知らねぇけど、とにかくやばい。

急に、臨也が可愛く見え出した自分に単純すぎだ、新羅の言葉に影響されすぎだ、と思うけれど。
それでももう静雄の目にも、臨也のその表情だとか、なんでもない風を装おうとする(できていないけど)姿とかが、可愛くしか映らない。
ムカつくところも多々あるがこれは可愛い生き物だと、そう思えてくる。

「なに、笑ってんのさ」
「何でもねぇよ」
「じゃあ放してよ」
「嫌だ」
「………はなせこの馬鹿。大体俺はシズちゃんなんかなんとも思ってないって言ってるだろ」

拒否すればムッと眉を寄せて睨む相手。
何かに、気付いてしまいそうな。そんな予感がした。
それが何だかも分からないまま静雄はくっと低く笑う。

「…お前って案外可愛いよなぁ」
「はあ!?何言っちゃってんの!?っていうかいい加減放せ!ああもうこの馬鹿力!!」
「煩ぇよ、少し黙れ…ああ、いや……まあ黙らなくてもいいか」
「なっ!なんなの訳わかんないし!放せよこの…っ」

シズちゃんなんか嫌いだー!!と。
相変わらず静雄の腕に囚われたまま真っ赤な顔で叫ぶ臨也の言葉をすべて逆に変換して。
静雄は明日からこの相手にどう接しようかとどこか楽しげに考えるのだった。












※洗脳されてるんじゃないの…というくらい単純な静雄さん。彼はあくまで無自覚です。

もはやツンデレでもなんでもない代物になりました…すみません…;
リクエストありがとうございました…!ホントすみません…!