愛しい金色
※獣静雄と人間臨也でシズイザ。秋夜さんへの捧げ物!2個目!














扉を開けた途端体当たりするような勢いで飛びついてきた大きな生き物に。
臨也はぐらりと揺らいだ身体を何とか扉につかまることで支えた。
たぶんこれでも加減して体重かけないようにしてるんだろうなぁと考えて溜息をつく。

「…あのさぁ、君ね、」

溜息と同時に吐き出される抗議の言葉は、だが、べろりと唇を舐められたことですべて音になりきらずに終わった。
縞模様で飾られた長く太い尻尾がゆらりと揺れるのが見える。

「腹減った」
「うん分かったから舐めないで。俺は君のご飯じゃない」

べりっと音がしそうな勢いで引き剥がすと、不満そうに鼻を鳴らすその生き物は床に足を下ろした。
人ではないが人の言葉を話す獣。
人間が好きで人間以外は愛せないと思っていた自分のもとに転がり込んだこの奇妙な獣が何なのか、臨也は知らない。
…まあデュラハンだっているんだし、別にこういう生き物がいたって不思議じゃないんだろうけどさぁ。
見上げる淡い色合いの瞳を見つめ返して、まあどうでもいいかと思考を放棄して。
腹を空かせた獣――静雄に、臨也は今日の晩御飯の献立を告げた。

「今日のメインはローストチキンだよ…って言ってもこれから焼くんだけど。先に何か食べるかい?」
「あー…いや、待つ」

ぱたんと一回尻尾で床をはたいてそれから答える静雄。
それに、そうと返事をして臨也は部屋へと上がった。
ゆったりと歩いてついてくる獣の足音はネコ科動物らしくほとんどしない。

金色の毛並み。綺麗に入った縞模様。大きな手足に丸い耳。
人の言葉を喋るが、彼は、所謂虎と呼ばれる生き物だ。
しかも大きさを考えれば恐らく最大だといわれるアムールトラ。

こんな生き物を都会のマンションで飼っていると――いや、別に飼っているわけではなく勝手に居候しているだけだが――知れたらさすがにやばいよなぁと考えてしまう。
と、静雄が話しかけてきた。

「…すぐ支度できるのか?」
「うん。下準備は出来てるからね。あとは焼くだけだよ」

ちょっと待っててねと言ってキッチンに直行した臨也に、虎は大人しくリビングへと向かったようだった。
視界の端で揺れた尻尾はふわふわで、一度思う存分撫で回したいと思っているのだが、不機嫌になること間違いなしなのでそれは秘密だ。

「なぁんで尻尾触られるのは嫌なのかな?」

呟きはたぶん耳のいい彼に届いているのだろうが、返事はない。
ちぇっと舌打ちして、臨也は手早く支度を済ませることにした。





「しーずちゃん」
「静雄だ。シズちゃんじゃねぇ」

フローリングの床に敷いた毛足の長いラグマット。
その上に寝そべる虎に声をかければ、すかさず文句を言われる。
いつものことなので気にせずソファに腰掛けた臨也は、不満げに揺れる尻尾を目で追いながらふんわりと微笑んでみせた。

「焼けるまで少しかかるよ」
「…分かってる」

頷く静雄が視線を僅かに泳がせたことに、つい笑みが深くなる。
人間だったら、たぶん少し頬が紅潮していたりするんだろう。
可愛らしい反応をする静雄に、ああやっぱり好きだなぁと素直に思った。
自分がすっかりこの動物に心を奪われてしまっていることくらい、臨也だってちゃんと自覚している。
綺麗で可愛くて、そのくせ時々妙に男前で。
ああもう堪らないなぁと本気で思ってしまうのだ。

「シズちゃん、おいで」
「…犬呼ぶみてぇに呼ぶんじゃねぇよ」

そう文句を言いながらも寄ってくる虎の首に手を回して抱きしめる。
柔らかな毛並みに顔を埋めて、もう一度小さく名を呼べば。
静雄は溜息混じりの苦笑を漏らした。

「臨也」

低い声音で呼ばれて、じわりと歓喜が込み上げる。
元々はただ拾っただけで、それ以上の意味も興味もなかったのに。
なのに、いつのまにかこんなに大事な存在になっていた。
この存在を求めていたのだとそう思えるほどに、静雄は今の臨也にとって必要不可欠な存在なのだ。
ぎゅうっと腕に力を込めて、
「シズちゃん、大好き」
と告げると。
大人しく抱きしめられていた虎がぴくりと身体を揺らす。

「手前は、時々やけに素直だよなぁ」
「俺はいつでも素直だよ?」
「どうだかな?」

くっと笑って、静雄が身を起こした。
力の差もあり、引き止める間もなく離れた獣に臨也は不満げに眉を寄せる。
そんな臨也の目の前で、静雄の体が変化を始めた。
毛皮が薄れ、前足が手になって。
僅か数瞬で、静雄は獣の耳と尻尾だけを残した人の姿に変わっていた。

「…毛皮、気持ちよかったのに」
「そうかよ…」
人型になった彼に、臨也はむうっと口を尖らせて首を振る。
だが。
でも俺も抱きしめたかったんだ、と言われてしまえば、ちっぽけな不満などあっさり霧散してしまう。
あっというまに機嫌を回復させた臨也に、人型になった虎は彼を抱き寄せてちゅっと額にキスを落としてきて。

…甘やかされてるなぁ俺。と苦笑して。
臨也は毛皮のなくなった金色の獣の背を抱き返して、小さく満足げに息を吐き出した。












※獣静雄(獣型⇔人型どちらも可能)と臨也さん。
RT&リクエストありがとうございました!そして期待はずれですみません…