※中途半端な小話。この前半のおいかけっこ部分のデータが行方不明になったのでこちらに…














猫のように音を立てずに歩く臨也の後ろを、静雄はゆっくりとした歩みで追う。
コートを着ていてもほっそりとしていることが分かる後姿。
ふわふわのファーと、触り心地が良いと知っている髪の感触とを思い出して、何となく複雑な心境になる。

どこで間違ったのか。

今でも静雄には分からない。
出会いから間違えた気もするし、こんな関係になったあの日に間違ってしまったのかもしれないし。
ただ分かっているのは、こうしている限り、静雄と臨也は変わることなく、互いを傷つけて、なのに求め合う、そんな奇妙で微妙で曖昧な関係のままだということだけだ。

――どうすれば、いいんだろうな。

変えたいと思うが、相手がそれを望んでいるようには思えない。
あくまで静雄との関係は割り切ったものだと。
そう線引きされているのが分かるから、踏み込めないでいる。

「あー…ったくよぉ」

考えても無駄だ。止めだ止め。
ぶんぶんと頭を振って沈みかけた思考を振り払って、静雄は振り返らない臨也の背中を睨みつけた。
すべてこいつが悪い。そう、決め付ける。
臨也がいたから。臨也に出会ってしまったから。臨也が逃げなかったから。臨也が拒まなかったから。
だから、臨也が悪いのだ。
相手にしてみれば理不尽で身勝手なことだと理解しながら、それでもそう思うのだから仕方ない。

「…我慢は性に合わねぇんだよ」

いつだって機会はあったのに我慢していた。
だが、踏み込めないとかそんなことを考えて自分の気持ちをごまかして我慢し続けるなど。
短気な自分にいつまでも出来るはずがないのだ。
臨也の気持ちがどうであっても、もう遠慮などしてやらない。

――ぜってぇ逃がさねぇ。

開き直った静雄は心の中で呟き、すっと目を眇めた。
そんな彼の不穏な空気が伝わったのだろうか。
臨也が不意に振り返る。

「…シズちゃん?」

首を傾げる仕草はどこか無防備で。
警戒心が強いはずのこの男を酷く幼く見せていた。

ほとんど反射的に手を伸ばす。

「っ!」

距離を詰めるのは一瞬。
反撃される前に唇を奪って、数歩ナイフの届かない距離まで下がる。
だが、掠めるようなキスに臨也は目を丸くしているばかりで反撃の気配はまったくなかった。
その様子にくっと笑って。
静雄は何事もなかったかのように固まる臨也の横をすり抜ける。

数週間ぶりに触れた唇は、相変わらず柔らかかった。
その感触を思い出して無意識に笑みが深くなる。

「置いてくぞ、ノミ蟲」
「!な、あ…ちょっと、待ってよ!」

声をかけるとようやく正気に戻ったらしく。
慌てて早足で追いかけてくる臨也の気配を感じながら、静雄は彼を手に入れるための計画を練り始めるのだった。












※いつも通りのシズ→(←)イザな話でした。ホント前半どこ行ったの…