ひだまりの猫
※けもみみパラレル。うおのめさんへの捧げ物。














暖かい日差しが差し込んできて、静雄はふと顔を上げた。
ちらりと見えた時計は、午後2時を差していて、自分が一時間近く本に没頭していたことを知る。
そして、そこからさらに巡らせた視線が目的のものを見つけられなかったことに、静雄は首を傾げた。
たしか机でなにやら真剣にパソコンを睨んでいたはずの相手――臨也が見つからない。
ほとんど無意識にゆるゆると伏せられる狼の耳。
それを指摘するはずの相手を探してさらに視線を巡らせて。

「………やっぱ猫、だよなぁ」

静雄はそう脱力気味に呟いた。
視線の先、黒い猫族は身を丸めて小さな寝息を立てて眠っていた。
日溜まりで眠るその姿が、あまりにも動物の猫を連想させて、ついつい苦笑が漏れる。
やっぱり臨也は絶対猫の血の方が濃いな、と思いながら、静雄はそっと立ち上がって眠る猫族に歩み寄った。
が、安心しきっているのか起きる気配はない。
そんな臨也の隣に静かに座って、寝顔を覗き込む。
なんというか緊張感のない顔だな。と、本人が聞いたら怒りそうな感想を抱き、溜息。
こんな顔他のやつの前で晒したりしたら許さねぇ、と独占欲丸だしな台詞がその口からこぼれた。
それでなくても静雄の敵はあの九十九屋とかいう男を筆頭に多すぎるのだ。
手を伸ばして、そうっと触れて。柔らかな髪を梳いてみる。
これをできるのが自分だけの特権であればいいのに、警戒心が強い割に意外に無頓着なこの黒猫は新羅や門田にも撫でることを許してしまうのだ。
少しーー否、正直かなり腹立たしい。
と、ついつい眉間に皺が寄ってしまった静雄の不穏な空気を感じたのか。
ふるりと薄い猫耳が震えて、臨也がうっすらと目を開ける。

「ん…しずちゃ?」
「悪ぃ、起こしたか?」
「んー…」

くるると喉を鳴らし静雄の手に顔をすり寄せる仕草は猫そのもの。

「しずちゃんのて、あったかいねぇ」
「……そうかよ」
「ん…おれ、この手がいちばん、好き」

誰と比べてんだよ、とは口にしなかった。
したところで寝ぼけた臨也にまとも返答など期待できないし、それに。

「一番なら、まあいい」
「……?」

呟いた静雄に、臨也は不思議そうに目を瞬かせる。
それに笑ってやって、寝ていいぞと声をかければ僅か首を傾げて。
そうして何やら考えて、臨也は緩慢な仕草で身を起こした。
何をするのかと見守っていれば、伸ばされる両腕。
ぎゅうっと抱きつかれて、静雄は一瞬だけ目を丸くする。

「…臨也?」

問いの意味を含めた呼びかけは、無視された。
代わりにしゅるんと黒い尻尾が静雄の腕に絡めて、
「んー」
ぐりぐりと肩口に頭を押しつけて、黒猫は甘えた声を出す。
甘える相手に、自分の尻尾が無意識にぱたぱたと揺れるのを感じて、静雄はゆるゆると息を吐き出した。
なんでこいつはこう時々妙に可愛いんだろうなぁ。なんて思ってしまう時点で、色々な意味で負けたも同然だった。

「しずちゃんも、ねよ?」

手前はガキか。
そう問いたくなるほど舌っ足らずな声。
静雄に断る理由はないし、甘えてくるこの黒猫相手に断るのは…ほぼ不可能だ。
やれやれと苦笑して、静雄は身を横たえた。
すぐにころりと転がってくる臨也を受け止めて、暖かな日差しが降り注ぐ窓の外へと視線をやる。
まだ当分日は沈みそうにない。こんな穏やかな日があってもいいだろうと考えて。
ひだまりで幸せそうに眠る猫を腕に抱いて。
狼は、まあ昼寝も悪くねぇかと笑って目を閉じた。












※RT&リクエストありがとうございました!期待はずれですみません…っ><