※来神シズ→イザ。モコロさんへの捧げ物。














「この待ちやがれッ!」
「待つわけないだろ馬鹿じゃないの…っていうかシズちゃんは馬鹿だったね!」
「誰が馬鹿だ!このノミ蟲がぁああ!」

臨也が逃げて静雄が追って。
その日も、いつもと変わらない光景が繰り広げられていた。
校内を走り回った後、外へと飛び出した臨也に静雄も外へ走り、はた迷惑な鬼ごっこが続く。

「死ね!」
「なんで俺が!君が死ねばいいだろ!」

低レベルな言葉の応酬も交えながら、二人はプールへと差し掛かる。
カシャンと音を立ててフェンスに手をかけ一気に登って、臨也は軽い身のこなしでプールサイドに降り立った。
当然静雄もよじ登って後を追う。

「しつこいなぁシズちゃん!そんなに俺が好きとは知らなかったよ!」
「…ッ…だれが!手前なんか好きか!!」
「嘘ばっかりっ」

くすくす笑いながら言う臨也に静雄は聞こえない程度に小さく舌打ちした。
自分が臨也を好きだなど、もちろん、臨也本人は冗談のつもりで言っているのだろう。
だが、実際はそれは真実をものの見事に言い当てていた。
今追いかけている理由はただムカつくからだが、静雄が臨也を好きなのは事実で。
一瞬ばれたのかと慌てそうになったが、臨也の表情からたぶんそれはないと否定する。
この気持ちを伝える気はない。こんな相手に惚れているなどとばれたら利用されかねないことは静雄にも分かっていた。

「うぜぇ黙れ死ねッ」
そう誤魔化すように言い返せば、
「嫌だよ!なんでシズちゃんの望みをかなえてあげなきゃいけないのさ」
ばっかじゃないのと心底馬鹿にした顔で臨也が言う。
当然、短気な静雄の思考は一気に怒りへと傾いた。
フェンスを掴んで、一気に引っこ抜いて臨也に向かって放る。

「はは、当たるわけ――ッ!?」

軌道を読んでひょいと避けた臨也の身体が傾いた。

「臨也ッ!?」

ばしゃんと派手な水音。
フェンスを避けたものの自分が今どこにいるかをうっかり失念していた臨也は水で足を滑らせてしまって。
“プールサイド、滑る、水音”とくれば、結果を想像するのは容易いだろうが、つまり、臨也はもののみごとにプールに頭からダイブしてしまったのだった。
突然のことに虚をつかれて静雄の怒りは霧散する。
そのまま呆然と波紋の広がる水面を見つめることしばし。
落ちた時同様に派手な水音をさせて臨也が顔を出した。

「……おい、大丈夫か…?」
「………冷たい」

いまだ半ば放心状態で問いかければ、水の中の相手は眉根を寄せてそう呟く。

「…とりあえず上がれ」
「うん」

こくりと頷いてプールから上がってきた臨也の顔は不機嫌そのものだ。

「あーもうビショビショ…夏で良かったよ。でなかったら風邪引くところだ」

水を吸った短ランを脱いだ臨也はシャツの裾を摘んで盛大に溜息をつく。
ポタポタと髪から伝い落ちる雫をぬぐって、ジャージに着替えるかなぁとぼやく姿を何とはなしに見ていた静雄だったが。
そこでふと、とんでもないことに気が付いた。
いや、別に静雄以外にとってはなんでもないことかもしれないのだが…

――やばい…マジでやばいッ

ぺたりと肌に張り付くシャツは白ではないので透けはしないが、それでも細い身体のラインをくっきりうつし出していて。
…正直、すごく目の毒だった。

「……これ、着ろ」

上着を差し出したのは、好意ではなく自衛。
静雄は出来る限り臨也から目を逸らしながら、さっさと受け取れと唸る。

「……シズちゃんが優しいとか普通に気持ち悪いんだけど」
「煩ぇ。さっさとしろ」
「んー…まあ、ありがと」

比較的素直に頷いた臨也は上着を受け取って、そして――

「ちょ、おま!?何脱いでんだよ!?」
「え?だって濡れてるから脱がないと」
「だぁあああ!脱ぐな!せめて俺があっち向くまで待てぇえええ!!」

言っている傍から臨也は気にせずシャツを脱ぎ捨ててしまった。
当然、うっかり視線を向けてしまった静雄の目に、ばっちり臨也の乳首とか鎖骨とか細い腰とかが映ってしまう。

――このノミ蟲がぁああ!ちっとは人の話を聞けよ!っていうか、頼むからさっさと上着を着てくれ俺の理性がもってるうちに!!

「もーシズちゃん煩いなぁ」
「煩くねぇさっさと着ろ!露出狂か手前は!!」

必死に理性の手綱を引き締めて叫んだ静雄は、たぶん悪くない。












※期待はずれな出来ですみませんでした…!
あと来神学園にプールがあったかは検証してません…