短いの詰め合わせ4。
※小ネタ。














※タイムアタックに挑戦したもののログ。


「…ううう」
唐突に、きゅうっと目を閉じて唸る臨也に。
静雄は何なのだと怪訝そうな顔をした。
「おいノミ蟲…?」
声をかけるが、聞いているのかいないのか。
臨也は返事もせずに目をこすりはじめた。
「おい…やめろ」
あまりに強くこする様子に、目が傷つくだろうと慌てて止める。
「…シズちゃん、邪魔」
言葉同様、邪魔だとばかりに手をべしべしと叩かれてため息。
本当に子供っぽい男だと思いつつ、静雄は臨也のために目薬を取るために手を伸ばした。
棚の上に置かれたそれをひょいと取り上げる。
「おら、顔貸せ」
「ん」
「おい、目を閉じるんじゃねぇよ」
「だって、痒いし目薬、やだ」
「………」
こいつわざと言ってやがるんじゃねぇだろうなと疑いたくなる子供っぽい口調に意味もなくイラっときて。静雄は無理やり頭を押さえ込む。
「ちょ、シズちゃん痛い!!」
「うるせぇ黙れ。かわいこぶんなかわいくねぇから」
「なにそれ!だれがかわいこぶったんだよ!?」
「うるせえっていってんだろうがこのノミ蟲が!だいたい手前があんな――」
どちらかが喧嘩腰になればあとはもういつもと同じ。
眉を吊り上げて喚く臨也に、静雄が目薬をさせたのはそれから30分も後のことであった。








※サイケ誕…に2日も遅れて書いたもの。psychedelic dreams−xx設定。


「ねーねー臨也くん」
「ん?」
「たんじょうびってなーに?」
そう、サイケに尋ねられて。臨也は小さく首を横に傾けて、それからサイケの後ろの静雄と津軽を見た。
二人の表情からは特に何も読み取れない。
むしろ、サイケの言葉自体、予想していなかった様子だ。
「ええと、誕生日っていうのは、生まれた日のことだけど…?」
「生まれた日?」
「うん。そうだけど…あれ?」
「?」
あれ?とさらに首を捻る臨也に、一緒にサイケも首を傾げる。
それを視界に納めながら臨也は自分の後ろで作業を手伝っているデリックに声をかける。
静雄にかけなかったのは、なんとなく聞いたら呆れられそうだったからだ。
「デリック、今日って何日?」
「え?5月28日ですけど」
それがどうしたんですか?と怪訝そうな声をかけられるが、臨也はそれはもう聞いてはいなかった。
「あー、もう。俺、そういうの興味ないからなぁ…」
はぁ…と溜息を吐いて、首を振る。
完全に失敗だ。そう思いつつ、臨也はサイケを見た。
「サイケ、ごめんね。君の誕生日、一昨日だったんだ」
「…?そうなの?」
きょとんとするサイケはたぶん誕生日がどういうものかなど、大して理解していないのだろうけど。
しまったなぁと自分の間抜けさを呪いながら、臨也はサイケの頭を撫でる。
「うん。ごめんね。お祝いしてあげられなくて」
「…?」
「誕生日は、生まれてきたことを、ありがとうって、おめでとうって感謝する日なんだよ」
「そうなの?」
「うん。だから、遅くなったけど、おめでとう」
柔らかな声でそう言った臨也に、サイケはふにゃんと笑顔になって答えた。
「ありがと」
「うん…何か欲しいプレゼントはある?」
「プレゼント…?んー…?」
こてんとまた首を傾げて、サイケはうしろを見る。
苦笑する津軽と、穏やかな顔の静雄。それから視線を前に戻せば、やはり穏やかな表情のデリック。――隣の日々也はどうでもよさそうな顔だったが。
それらを一通り見回して、サイケは笑顔をまま、臨也に抱きついた。
「さ、サイケ?」
いきなりの行動に戸惑う声を聞いて、サイケは小さく声を立てて笑う。
「おれはね、みんながいればなにもいらないよ。おれね、臨也くんもつがるも、デリも、シズちゃんもひびやくんも、みんな大好き!」
きゅううっと抱きしめる腕に力をこめて、さらに続く言葉。
「おれをつくってくれてありがと、臨也くん」
その言葉に、臨也は少し一瞬目を見開いて、それから小さく微笑んだ。
「それじゃ、まるで俺がプレゼントを貰ったみたいだな」
「いいのー!おれは臨也くんがだいすきだもん!あ、でもつがるはもっと好き!」
「はは、そういうとおも――って、ちょっと!?デリック何してるのさ!?」
「いや、俺もぎゅーしたいなーと思いまして」
「思うなこのっ」
後ろからデリックに抱きしめられて慌てる臨也に、おれも負けないーと何故か対抗心を燃やすサイケがぎゅうぎゅうと抱きつく。
決して非力でない腕に力いっぱい抱きしめられてぐえっと呻いて。
臨也は視界にいる静雄に助けを求めた。
「ちょ、もう!シズちゃん黙ってないで助けてよ!」
「いや、サイケの誕生日プレゼントだと思えばいいんじゃねぇか?」
「薄情者!津軽助けろ!」「サイケが幸せなら、今日は許す」
「あああ、もうこの役立たずどもー!!」
叫ぶ臨也にサイケはもう一度その耳元でありがとうと囁いて。
その後、小さく「あのね」と言った。
「でも、もしくれるなら、つがるがいいな」
「…は?」
どう考えても決して純粋無垢な響きを見出せないそれに、臨也は一瞬耳を疑って。
それから、あーもうやだこいつら、と脱力したのだった。








※月六。psychedelic dreams−xx設定。


目の前の後姿を眺めながら、八面六臂…通称六臂は、難しい顔をしていた。
後姿の相手は気づかない。それがとても不満だった。
――月島静雄。
自分と同じ人型PC。
その最も新しい機種の試作品として生み出された彼は、六臂の想い人でもあった。
出会ってからずっと、何故かいつでも――臨也に用事を言いつけられない限りは――六臂の側にいてくれる。
それを最初は拒絶し続けていたのに、それでもただ優しく傷ついた六臂を慰め続けてくれた月島に、六臂はゆっくりと、そしていつのまにか、恋に落ちていた。
機械が恋なんて、と最初は自身に呆れたりもしたが、周りの恋に浮かれた同族たちを見ていて次第に何だかどうでも良くなった。
「…、」
ただ、六臂はそれを言い出せないでいる。
好きですと優しい声で囁かれることに満足してしまって、いまだに告白できずじまい。
だから、こんな時も要求を口にすることができないのだ。
方向音痴の月島のお遣いに付き添って外へ出る機会が増えたとはいえ、先に歩く月島は時折こっちでいいですか?と訊いてくるか疲れてませんか?とか大丈夫ですか?とか、そんなことばかり口にして、六臂の望みには気付いてくれそうにない。
最初にお遣いに付き添った時からの密かなそれは、実行される機会も可能性もないまま、六臂の胸で燻っている。
…鈍い。
そんな身勝手なことを思う六臂はむうと口をへの字に曲げた。
「………」
目の前でひらひらと揺れる長いマフラー。
それと、無防備に歩くのに合わせて揺れる月島の左手とを何度か見比べて。
六臂は意を決してそっと手を伸ばす。
人間だったら、確実に心臓がどきどきと破裂しそうになっていたことだろう。
こっそり掴んだマフラーを引っ張らないように慎重に握って、六臂は小さく息を吐き出した。
そうして、本当は手を繋ぎたかったのだけど、とちらりと揺れる手をみる。
つまり、恥ずかしいのだ。手を繋いで欲しいなんて言えないし、言える立場でもないし、なにより恥ずかしい。
人前で手を繋ぐのもそうだけれど、月島と手を繋ぐと考えただけで真っ赤になるほど恥ずかしいのだ。
ふるふると頭を振って熱の上がった頭を冷やそうとするが、感情と連動するそれらは熱を上げるだけ。
「……」
熱暴走で固まっちゃったらどうしよう…と心配になり始めながらも、マフラーから手を離せない六臂は小さく困ったなと呟く。
その一拍あと、声が聞こえたのか、月島が振り返った。
「どうかしましたか?」
「…な、なんでもない!いいから前向け!また道に迷いたいわけじゃないんだろ?」
慌てて手を離して、何とかマフラーを掴んでいたことがばれずにすんだ六臂はほっとしながら、前方を指差す。
少し納得が行かないような、そんな顔をして。
それから月島は頷いた。
「確かにこれ以上迷うと帰れなくなりそうですし…あの疲れてませんか?大丈夫ですか?」
問いに「大丈夫だから前見る!」と返して、それから溜息。
もしばれていたら恥ずかしいなんてものではない。月島を置いてダッシュで帰ってしまっていただろう。
「…月島」
「なんですか、ろっぴさん?」
「…なんでもない」
いつかこのオーバーヒートしてしまいそうな感情が限界まで膨れ上がったら告白できるのだろうか。
そう考えながら六臂は照れを隠すために月島の背を押して次の角は右だと指示を出したのだった。












※ついったログからのリサイクル。