短いの詰め合わせ1。
※没ネタとか小ネタとか。基本的にまとまりない。…いつもそうじゃないかとか言わないで下さい…














※SSSS2-1、料理その後。


「はい、これでいい?」
テーブルの上のそれを手で示す臨也に。
静雄はそれを凝視する。
「………」
「何かな?」
「すっげぇな、お前」
「はぁ…」
すげぇと感嘆の声を上げられても正直困るのだが。
そう思いつつ、臨也は皿とフォークとケーキナイフを渡す。
「好きなだけ切って食べていいよ」
そう言って、生クリームたっぷりのショートケーキを押しやった。
きれいにデコレートされたそれは、確かに静雄の言葉通り見事なものだ。
「手前は食わねぇのか?」
「食べないよ…そんなに甘いものは好きじゃない」
「うまいのに」
「いいんだよ」
興味をなくして視線を外した臨也に、静雄はふうんと呟いて切り分けたケーキを一口。
もぐもぐと口を動かして、ごくりと飲み込んで。
「うめぇ」
満足げな顔で微笑まれて、何となく詰めていた息を吐く。
「それは何より」
じゃあ俺仕事に戻るから。
そう言って離れようとした臨也の服の袖を静雄が掴んだ。
「ほら」
「………」
ほら、と差し出されたフォークに。
臨也は眉間に皺を寄せる。
「…あのねぇシズちゃん」
「食べねぇのか?」
だからその心底意外そうな顔を止めろ。
色々言ってやりたいことも言うべきこともあった気がするが、気力をそがれてしまった。
なんで、シズちゃんと“はい、あーん”などやらなければならないんだ。と。そう本気で思いながら、臨也は渋々口を開いて、たいして食べたくもないケーキを頬張ったのだった。








※前書いたRT小話の前フリ没。


「――は?」
静雄から切り出された言葉に、臨也は自分の耳を疑った。
それもそのはず。
彼の言葉は、およそ絶対あり得ないたぐいのものだったのだ。
「それ、本気で言ってるの?」
「おう」
「………」
撤回されることを願っての問いかけはあっさり肯定されて、沈黙が落ちる。
静雄の顔と、手の中のチケットと。
二つを交互に見比べて、眉間に皺を寄せて唸ったのは仕方のないことだろう。
これが貰っただけであるならば、まあ問題はない。見に行く時間があるかどうかは別にして――誰かに売りつけてもいいし――、珍しい静雄からのプレゼントだ。ありがたく頂戴しただろう。だが、静雄が持っていたチケットは二枚。手渡されたチケットは一枚。
そこに落とされた爆弾発言は、臨也の頭を混乱させるに十分な威力を持っていたのだった。
「…………ねぇ、シズちゃん」
「ん?」
「俺と君って、そういうことするような仲じゃないと思ってたんだけど…」
「あ?んなのわかってんだよ。だけどトムさんからもらったチケットの期限が今日までなんだから仕方ねぇだろ」
「いや、なにが仕方ないのかわからないし…」
脱力して呟いた臨也だったが、そんなことお構いなしの静雄は、彼をずるずると映画館まで引きずっていったのだった。








※冒頭だけ書き出して飽きた没ネタ。


一年前、折原臨也が姿を消した。
当初は、ついに消されたのだとか色々な噂が飛び交ったが、数ヶ月のうちに誰の口にも上らなくなった。
折原臨也の痕跡は、もはや街のどこにも残っていなかった。



「………」

平和島静雄は、ベンチに座ってぼんやりと空を見上げていた。
紫煙を吐き出して、小さく舌打ちする。
ここまで跡形も残さずいなくなるのなら、自分の中からも消えてくれれば良かったのだ。
そうしたら、こんなにも思い悩まずにすんでいただろうに。
そう考えて、奥歯を噛みしめる。
まるで片想いだ。
そんなことを思うようになるほど、静雄はこの一年間、折原臨也の姿を無意識に探し続けてしまっている。
はあ、と大きく息を吐き出して。
手にした携帯をいじる。
数度の操作で表示された名前を眺めて、また溜息。
この番号にかけて出なかったら、あるいはすでに番号が使われていなかったら、すっぱり忘れてしまえばいい。
そう何度も何度も思って。それでもいまだにかけられないのは、最後の砦と言ってもいいこの繋がりが絶たれるのを静雄が恐れているからだった。








※フリリクの半獣シズちゃん前フリ没。


――その日、俺は金色のライオンを拾った。



昔々、ヒトは二種類の姿を持っていた。
一つは人。
一つは獣。
彼らヒトは好きな時に自由に姿を変えられた。
でも、ある時、別のヒト――人間が生まれた。
変身できない。
目もよくなければ耳も鼻もよくない。
走る足も遅く、強い力も持たない。
脆弱すぎるちっぽけな人間は、だが、増え続けた。
そうして、いつしか人間たちは集まり、独立する。
獣に変わるヒトは追いやられ、隔てられた両者は、まったく別の種へと変わって行った。



御伽噺だ、という人間は多い。
そんな“隠された真実”を記した紙の束を机に放り投げ、折原臨也は溜息をついて少し離れたところにあるソファに視線をやる。
そこには、毛布をかけられた男が眠っていた。
カーテンの引かれていない窓から入る月の光でキラキラと光る髪は金色。
髪の間から覗く耳は、丸みを帯びて柔らかな毛並みに覆われている。
そう。男は半獣と人間が呼ぶ生き物だった。
「………」
ふうともう一度息を吐き出して、臨也は椅子から立ち上がる。
目的地は、いうまでもなく半獣の男の側だ。
すぐに辿りついたその場所で、立ったまま見下ろす。
金色の髪と同じ金色の獣の耳。
毛布からはみ出してソファの縁から垂れ下がる尾も金色の毛並み。
長い尾を視線で辿れば、他よりも長い毛が房を作っていた。
「…ライオンかぁ」
人間社会に溶け込む意外に半獣は多い。
特に犬や猫の半獣は多く見かける。
だが、大型の肉食獣…ことにネコ科の半獣はほとんど見かけることはなかった。
「ねぇ、君はなんであんなところにいたのかな」
擦り傷だらけになって、衰弱して。
路地裏に転がる彼は、到底百獣の王と言われる獅子の半獣には見えないほど、みすぼらしい姿だった。
「…どうしようかなぁ」
これからこの生き物をどう扱うべきか。
それを決めかねている臨也は小さく息を吐いて、窓の外の丸い月を見上げた。








※psychedelic dreams−4.5。月六。


「ろっぴさん」
そう呼ばれて、ろっぴ――八面六臂と呼ばれる人型PCは顔を上げた。
「月島?」
お前どうしてここにいるんだ?と、首を傾げる。
「出かけるんじゃなかったのか?」
「はい…出かけようと思っていたんですけど、臨也さんがろっぴさんがここにいると言っていたので」
「……そう」
余計なことを、と自身と月島の製作者である男の顔を思い浮かべる。
平和島静雄という護衛を得た今、男――臨也が六臂を連れ歩くことはない。
それが、少し寂しかった。
「月島は、俺でいいわけ?」
「?」
きょとんとして、首を僅かに傾ける月島に、苦笑する。
あの平和島静雄と同じ顔だというのに、何故こうも違うのだろうか。
「俺は、一度壊れた欠陥品だから。俺を選んでもいいことないよ?」
一度壊れて、そのままプロジェクトごと凍結されて。
目を覚ました時には、もう自分の居場所はどこにもなかった。
製作者にも必要とされない、こんな欠陥だらけの自分が、月島の側にいていいのか。
それが、六臂にはわからなかった。
自分を見つめる月島の瞳が悲しげに眇められる。
「…俺はろっぴさんがいいです」
隣にしゃがんで、ぎゅうっと抱き締められて。
六臂は、そう、と小さく答えることしか出来なかった。












※没ネタ救済…っぽい詰め合わせ。